6.レベッカ
俊介は視線のやり場に困ってしまった。
なぜなら目の前に座る女性の服装があまりにもセクシーだったからだ。最初に話をしたエリー(ロン)よりも更に大きな胸を、最大限に強調した服を着ており、深ーい、深ーい谷間へと視線が釘付けになってしまいそうである。
俊介はその衝動を鋼の心で押し殺して、爽やかな表情を作って挨拶を交わし、プロフィールカードを交換した。
このセクシーな女性の名前はレベッカ。
二十九歳のサキュバスだった。
こうして正面から見ると人間のようにしか見えないが、もしかしたら羽や尻尾があるのかもしれない。
レベッカの見た目から、種族欄に書かれた内容に納得の俊介だったが、だからと言ってジロジロと見て良い訳がない。そう思って、プロフィールカードへと意識を集中させるが、どうしても視界の端の方にチラチラと見えてしまう。
ダメか……。
全力で誘惑と戦っていたが、どうしてもこの誘惑に勝てる気がしなかった。
さすがにこのままではマズイと判断した俊介は、潔く負けを認める事にした。そしてそれに伴い、作戦変更を行った。
ここまでに要した時間は、プロフィールカード交換から僅か三秒程。
誘惑には負けはしたが、だからと言って醜態を晒す気はさらさらないのである。
俊介はわざとレベッカの胸をチラ見してから、話しかけた。
「随分とセクシーな服装ですね。目のやり場に困ってしまいます」
「そう?何だったらしっかりと目に焼き付けてくれても構わないわよ?」
そう言うと同時にレベッカは、自らの胸の下で腕を組んで、わざと強調して見せた。
「え?良いんですか。では遠慮なく……」
俊介は覗き込むような動作をして、すぐに視線を上げると、言葉を続けた。
「なーんて。あんまりからかわないでください。こう見えて結構初心なんですから」
少し照れたように笑い、視線を逸らせて見せる。
「冗談じゃないんだけどな」
からかうような表情で見つめて来るレベッカだったが、割と本気で言っていそうで、俊介は思わず何かを期待してしまいそうになったのだった。
仮にもし、二人きりで同じような会話をしていたら、ガッツリ攻めただろうが、さすがにこの場では宜しくない。俊介は意識を切り替えて、プロフィールカードへと視線を移したのだった。
何はともあれ、作戦は一応成功。
こうしてわざと話題に上げる事で、いやらしさが軽減されるのである。更に、不思議な事に話題に上げる前と比べて、あまり気にならなくなる。
もしかしたら心理的な理由があるのかもしれないが、俊介は知らないし、実際どうでも良い事である。
大切なのは経験として、その事実を知っていて、こうして活用できるという事なのだ。
もし、同じような体験をする事があったらぜひ試してみると良い。もちろん、失敗した所で責任は取らないが……。
プロフィールカードを見ていた俊介は、すぐにある事が気になった。
「レベッカさんは魅了スキルを持っているんですね。これって今使ったりしてないですよね?」
当然、スキルが使用されていない事は、神眼スキルを用いて確認済みである。
「どうして?あっ!もしかして魅了されちゃった?」
俊介の意図を見抜いたであろうレベッカが話題に乗って来た。
「かもしれません。さっきからドキドキしてるんですよ」
「本当に?どれどれ……」
机から身を乗り出したレベッカの手が俊介の胸へと添えられる。自然と至近距離から見つめ合う事になり、俊介の鼓動は加速した。同時に耳が熱くなる。
赤くなった耳は、先程のカトリーヌのようである。
カトリーヌの時と同様に、主導権を取るつもりだったが、どうやらレベッカの方が一枚も二枚も上手のようだ。俊介は内心で白旗を上げて、早々に勝負から降りた。
「あの……。恥ずかしいのでそろそろ……」
視線を彷徨わせる俊介を見たレベッカは、クスリと笑うと姿勢を戻したのだった。
「レベッカさんは、どうして婚活パーティーに参加したんですか?」
仕切り直すように俊介は質問をした。
「私が参加しちゃダメなの?」
「いやいや、そんな事ないですよ。ただ、わざわざ参加しなくてもモテますよね?」
「そう思う?」
俊介が頷くとレベッカは「だよね」と言って笑った。
「理由を聞いても良いですか?」
「仕方ないなー」
小さく呟いたレベッカは「絶対に秘密にしてね」と前置きをした後で、辺りを見渡してから声を小さくして話し出した。
「実はね、私の住んでる世界の男の人って、みーんなアレが小さくて、ちっとも満足できないの」
そう言った後で小指を立てて「これくらい」と笑った。
予想外の話に俊介は驚きを隠せない。
まさかの下ネタに、どう反応して良いのか分からなくなったのだ。
しかし呆然としていたのもほんの僅か。
すぐに我に返った俊介は「それなら納得です」と笑って返したのだった。
そんな俊介の反応に、今度はレベッカが驚いていた。
間違いなく引かれるだろうと思っていただけに、ほとんど間を置かずに返って来た肯定の言葉が信じられなかったのである。
クソビッチと思われても仕方がないと思っていたのに……。
レベッカの気持ちを知ってか知らずか、俊介はさらに頭を回転させていた。
上手くやれば、レベッカとヤれるかもしれない。そんな下心と共に。
婚活パーティーと銘打ってはいるが、当然の話、ここで知り合った相手と必ずしも結婚しなければいけない訳ではない。
ここはただの出会いの場、きっかけを作る為のパーティに過ぎないのである。
だからこそ俊介は、種を撒くのだ。
相手が例えビッチであっても、仲良くなれるならば、それに越したことはないのだから。
下心をこれっぽっちも表に出すことなく、俊介達は下ネタで盛り上がった。
場所が場所だけにあまり大きな声を出す事は出来ないが、それが却って内緒話のようになり、俊介は楽しい時間を過ごす事ができた。
おかげで時間はあっという間に過ぎ去って、すぐに終わりの時間が訪れたのだった。




