5.カトリーヌ
席に着いた俊介は、早速先程同様に挨拶をしてプロフィールカードを交換した。
今度の相手は、カトリーヌという名前らしい。
綺麗な銀色の髪を一つにまとめて肩へと垂らしており、着ている服と相まって大人しそうなイメージを受ける。
プロフィールカードによると年齢は二十三歳で、騎士をしているようだ。種族の欄は獣人。それを見て頭に浮かぶのは、ケモ耳と尻尾。
「カトリーヌさんは騎士をされているんですね」
会話をしつつスキルを使用する俊介は「カッコいいですね」などとお世辞も忘れない。二人目という事で、少しだけ状況に慣れて来た。
「カ、カッコいいだなんて……。女が騎士をするのに抵抗はないのですか?」
明らかに照れているカトリーヌを見て、初心なんだなと俊介は思った。
神眼スキルで見た情報はプロフィールカードのそれと全く同じで、少し話しただけではあるが、実直な性格が垣間見れた気がした。
外見こそ俊介の好きなタイプからかけ離れているものの、カトリーヌの性格にはとても好感が持てた。
問題を上げるとするなら、カトリーヌがゴリラの獣人だという事だろう。
濃い体毛に厳つい身体、顔のパーツはゴリラの黄金比。
身長こそ低いが、見た目はほとんどゴリラと言って過言ではない。その上、なぜか肌の色は白くて、きめ細かい為に違和感が半端ない。
目の前にいるのは、まさに白銀のゴリラといった所だろうか。
なんてことだ……。
俊介は絶望していた。
女騎士が……。
獣人が……。
現実は厳しい。
今まで築き上げて来たイメージが、俊介の中で音を立てて崩れ去っていく。
それでも俊介は内面を表には出さない。
全力で表情を作り、会話を続ける。
「抵抗はないですね。俺の住む世界に騎士という職業はないんですけど、女性の騎士に対して悪いイメージはないですよ。むしろ一度会ってみたいと思っていたくらいです」
「本当ですか!?」
俊介の言葉を聞いたカトリーヌは、ホッとしたように「良かった」と呟いた。
そんなカトリーヌを見て俊介は思う。
くっころのイメージが強いだなんて絶対に言えないと……。
目の前のゴリラでは絶対に起こりえないだろうけれども。
少しだけ想像しかけ、一瞬にして後悔した。
あまりこの話題を引っ張るのは、自身の精神衛生上よろしくない。そう判断した俊介は、さっさと話題を変える事にした。何かないかとプロフィールカードを見ていると、趣味の欄に目が留まった。
書かれていたのは園芸。
意外に乙女なんだなと思いながら、俊介は話題に上げた。
「カトリーヌさんは花が好きなんですか?」
「あっ、はい。いつか殿方から花束を貰うのが夢だったんですけど、なかなか叶わなくて……」
カトリーヌは「自分で自分にプレゼントしちゃいました」と寂しそうに笑った。
失敗した。
そう思った俊介だったが、今の話をなかった事にはできない。
あまりに寂しそうなカトリーヌの表情を見てしまい、露骨に流すには、さすがに戸惑われたのだ。
いくらゴリラといえど、目の前にいるのは乙女なのだ。
俊介は自分に言い聞かせるようにして、改めてカトリーヌを見た。
やはり、その顔はとても寂しげだ。
俊介は何かを探す様に、視線を落とす。
そして。
「仲間ですね」
それは咄嗟に俊介の口から出た言葉。
その言葉を聞いたカトリーヌは不思議そうな表情をした。
「どういうことですか?」
俊介は「これです」と言って、自らの左手を掲げて見せる。
手首にあるのは、少し前に買ったばかりの腕時計。
「カトリーヌさんと同じように、俺も自分で自分にプレゼントしちゃいました」
そんな俊介を見たカトリーヌは、クスリと笑った。
「同じですね」
嬉しそうに目じりを下げて。
カトリーヌの反応を見て安堵した俊介は、早速次の話題を探していた。
なんとか持ち直す事には成功したが、再び墓穴を掘らないように気を付けなければならない。
先程のエリーの時のように絵を話題にしようかと、視線を移すが、そこにあったのは子供が書いたような稚拙な絵だった。
ゴリラだもんな……。仕方ないさ。
相手の性格によっては、弄り倒してもいいのだろうが、カトリーヌ相手には悪手だろう。
俊介は一瞬の内に幾通りものプランを考え、同時に何かないかと視線を走らせる。
顔を上げ、カトリーヌへと視線を移せば、たまたま目が合った。間を繋ぐように、ニコリと微笑みかけると、同じように返してくれた。
あっ……。
「えくぼ」
「え?」
何気なく出た言葉だった。
「カトリーヌさんて笑うと、えくぼが出来るんですね」
そう言って、自らの頬を指差して見せる。
「え、えくぼですか?」
想定外の事だったのだろう。
カトリーヌは耳を真っ赤にして視線を彷徨わせている。
「可愛いですね」
「へ?」
俊介のその言葉が追い打ちとなり、カトリーヌは耳だけでなく顔まで真っ赤にしてしまった。余程免疫がないのだろう。そう思った俊介は更なる追い打ちをかける。
「本当ですよ。えくぼが出来ると可愛さは三割増しです」
指を三本立ててカトリーヌの反応を伺う。
「三割増しですか?恥ずかしいです」
熱くなった顔を少しでも冷まそうと、パタパタと手を振って風を送る姿は本当に可愛く見えた。その手が毛むくじゃらでさえなければ。
「その仕種もそうですけど、照れてるカトリーヌさん可愛いと思います」
「――あんまり、からかわないでくださいっ」
言葉ではそう言うが、その口元は緩んでおり、まんざらでもなさそうに見えた。
この方向で行こう。
会話の方向性を決めた俊介が、しばらくそうやってカトリーヌをからかっていると、終了の合図が聞こえて来た。
「終わっちゃいましたね」
「はい。これでやっと落ち着けます」
「俺としては、もう少しカトリーヌさんの照れた顔を見ていたかったです」
「もう!あんまり苛めないでくださいっ」
怒ったフリをするカトリーヌだが、言葉とは裏腹に、その表情はどこか嬉しそうだ。こうして見ると内面は完全に乙女なんだと改めて思う。
会話をしている途中で、何度か可愛く見える瞬間があったのも事実だった。
外見はゴリラそのものだけど……。




