39.一つになる
「痛っ」
ゴンッという音がして、俊介が自らの頭に手を当てる。あまりにも熱中し過ぎて周りが見えていなかったらしい。振り返れば、頭のすぐ後ろに本棚があった。
「大丈夫?」
「うん、たんこぶが出来てなければいいけど……」
「見せて」
レベッカの小さくて華奢な手が俊介の頭に触れる。まるで壊れ物を扱うように、その手の動きは優しい。心地良さに目を細めながら、俊介はレベッカの方へと頭を傾けた。
「たんこぶあった?」
「ちょっと膨らんでるかも」
そう言って抱き寄せられた俊介の頭は、レベッカの胸に包まれた。最初に出会った時に比べれば、控えめではあるが、それでも十分な大きさの胸は柔らかくて、なんだかとても良い匂いがした。
くっついた事で聞こえてくるレベッカの鼓動は、明らかに大きくて速い。平気なフリをして俊介の頭を撫でている癖に、実際はそうじゃないらしい。その事が嬉しくて、その体勢のままレベッカを抱きしめた。
俊介が小さく顔を上げれば、レベッカの首筋が目に入った。それがたまらなく色っぽく見えて、白くて細いその首に、吸い寄せられるようにキスをした。
「んっ」
頭上から聞こえるレベッカの艶めかしい声に喜びを感じ、首のラインに沿って唇を這わせる。そうやって徐々に下がっていけば、白いシャツの襟元から覗く鎖骨に触れた。上から二つ程ボタンを外して、今度は鎖骨に沿って俊介の唇が横へと移動する。ついでに肩にかかるブラ紐を口で外した。
肌蹴たシャツから覗いたレベッカの色白で綺麗な肩と、だらりと垂れ下がった片方のブラ紐。唾液で濡れた鎖骨と、中途半端に覗く乳房が情欲を掻き立てる。
俊介は口を開いて、レベッカの肩へと軽く歯を立てた。痕が付かない程度の力で甘噛みしたまま、チロチロと舌を動かす。その後で腕の方へと少しだけ移動して、痕を残す様に強く吸い付いた。口を離せば、脇のすぐ横に小さな赤い痕が出来ていた。その事に満足した俊介は身体を起こして、レベッカに口付け、そして再び抱きしめた。
「ベットに行こうか」
レベッカが小さく頷いたのを確認した俊介は、その身体の下に手を入れてお姫様抱っこをするように持ち上げた。
「えっ!ちょっと……」
ほんの少し身体が浮いた段階で、レベッカは恥ずかしさから俊介にしがみ付いた。その動きに体勢を崩しかけた俊介は一度レベッカを降ろしてその顔へと視線を向ける。
「大丈夫だから。動くと危ないからじっとしてて」
「だって私、重いから」
下唇を噛んで視線を逸らせるその姿は、とても可愛らしい。俊介は自身の顔に笑みが浮かぶのを感じながら、再び体勢を整えて力を入れた。
「全然軽いって」
そう言って一気に立ち上がり、腕の中にいるレベッカへと頷き掛ける。
「ほら、大丈夫だっただろ?」
「――うん」
心地良い重さを腕に感じながら、ゆっくりと移動してベットへと優しく降ろしたのだった。
ベットに寝ころび、レベッカの上に乗るように身体を重ねた。そして、そのおでこにかかった髪をそっとどかして、キスをした。その時のレベッカの反応が妙に可愛くて、調子に乗った俊介は頬っぺた、鼻、瞼と顔の至る所にキスを落とした。
「ちょっとやめてよ」
笑いながら、でも少しだけ拗ねたように横を向いたレベッカ。髪の毛が乱れ、隙間から見えた耳。今度はそこを目掛けてキスをして、そっと息を吹きかける。
「やっ」
小さく喘いだレベッカの声を聞きながら、小さな耳を口に含んだ。耳の軟骨を唇で挟みながらそっと舌で撫でる。徐々に荒くなっていくレベッカの息遣いに合わせるように、俊介の手がレベッカの身体のラインに沿って撫でるように移動する。首筋から鎖骨を通り、胸を迂回して肩から腕、そして脇腹を撫で、臍を経由して腿へと進む。先へと進むごとに、ビクリと反応するレベッカが愛おしく感じた。そして今度は伸びきった腕を戻すように、逆側面を同じルートを辿って戻って来る。
再び首元へと戻った手を少し上げて、横を向いていたレベッカの顔を自分の方へと向けた。黙って見つめ合い、少しだけ厚いレベッカの下唇を俊介の親指が撫で、そのままの流れで、もう何度目になるか分からない口づけを交わした。
そうやって焦らすように、ゆっくりとゆっくりと、時間をかけて身体と心に刻みつける。例えすぐに、レベッカごと消えてしまうとしても、こうやって過ごした時間は確かに存在したのだと。口づけを交わし、抱きしめ合い、愛撫して、身体を絡ませる。そうやってお互いの気持ちを確認し合った相手が確かにいたのだと……。
この先、例え何があったとしても俊介がレベッカの事を忘れる事はないだろう。例えレベッカが消えてしまっても、俊介が生きている限り、思い出も、この想いも絶対に消える事はない。
そう、絶対に。
忘れたくない。
だから。
だからもっと……。
気付けば泣いていた。俊介の目から零れ落ちた涙が滴となってレベッカの顔へと落ちる。それに気付いたレベッカは愛おしそうに目を細め、か細い腕を伸ばして俊介の頭を自身の胸へと抱き寄せた。
「意外に泣き虫だったのね」
俊介の耳にレベッカの慈愛に満ちた声が響く。
「泣き虫な男は嫌いか?」
「わらない。でも、俊介の事は好き」
俊介の頭を抱きしめるレベッカの力が、少しだけ強くなったのを感じたのだった。
二人が一つになる頃には、涙も汗も唾液も体温も鼓動も何もかもが、もうどちらのものかも分からなくなっていた。
生まれたままの姿で抱きしめ合い、腕を、足を、指先を何度も絡め合ってはほどいてを繰り返し、お互いの体温を直接肌で感じる。どれだけ密着しても足りないとでも言うように、求め合う二人は、まるで本当の意味で一つになろうとしているかのようだった。
口から荒く甘い息を吐き出すレベッカの手はシーツを強く握り締め、身体を逸らし、身を捩る。その身体を強く抱きしめ、白くて華奢な首筋へとキスをする。そのまま舌を這わせれば、レベッカの身体がビクリと痙攣し、快楽の波が俊介にまで伝播する。
もう、何が何だか分からなかった。ただただ、その瞬間が愛おしくて、悲しくて、嬉しくて、切なくて、優しくて、怖くて、それでいてどうしようもない程に幸せだった。
これで終わりだなんて、信じたくはなかった。
ノクターンで書くべきだったのでしょうか。ノリノリで書いてましたが、途中で気づき大幅改変。こういった部分の表現は特に難しいですね。




