22.レベッカと1
婚活パーティーの翌日、俊介は出かける準備をしていた。
それは遡る事僅か数分前。
たまたま時間が合ったらしく、テンポよく続いていたレベッカとのメッセージのやり取り。その中で、俊介が深く考える事無く送った一通のメッセージがきっかけだった。
『休みの日は何して過ごしてる?』
早々に敬語はとれて言葉遣いは随分と軽い感じになっていた。
『友達とご飯とか』
『サキュバスのご飯……。ゴクリ』
『えっち』
『イエス!今日も友達とご飯?』
『今日は、おうちでごろごろ』
『ひまじん?』
『違いますー』
『それは残念。暇人なら遊んで貰おうかと思ったのに……』
『暇人になったよー。遊ぼう!』
俊介としては、あわよくばと会話を誘導したつもりではいたのだが、思った以上にノリがよくてフットワークの軽いレベッカの反応には多少驚かされた。
さて、遊ぶとは言ったものの、レベッカと俊介では文字通り住む世界が違う。
ではどうするかと言えば、連絡用のカードが鍵となる。
そう、まさに鍵になるのである。
カードに含まれている転移用ゲートの機能を起動して、相手を指定すると目の前に扉が現れる。その扉にある差込口にカードを入れる事で鍵が開くのだ。。
ただし、鍵は両方の世界に存在している為、どちらか一方だけでは扉は開かない。同じタイミングで、お互いに鍵を開けなければ、扉は開かれないのである。
因みに帰りは自分のカードのみで問題ないのだとか。
どんな仕組みなのか、謎である。
「これで良いんだよな」
約束の時間になった事を確認した俊介は、早速転移用ゲート機能を起動させた。すると突然、どこからともなく目の前に、重厚な鉄の扉が現れた。
その現象に驚きつつも、差込口にカードを入れる。
同時にガチャリという音がなり、扉上部にある二つのランプの内の一つが点灯した。
その状態でしばらく待っていると、残ったもう一つが点灯し、ゆっくりと扉が開かれた。
扉の向こう側には、雲一つない青空が広がっていた。
見渡す限りの草原と遥か遠くにそびえ立つ頂上の見えない高い塔。
そして目の前に立つ一人の女性。
白を基調としたワンピースを身に纏い、被った麦わら帽子が風に飛ばされないように手で押さえているその姿は、まるで映画の中のワンシーンのように美しい。
婚活パーティーの時に感じた妖艶なイメージはなく、そこには清楚で可憐なレベッカがいた。
「こんにちは。似合わないかな?」
驚きのあまり、固まっていた俊介を見たレベッカが、心配そうに自分の服へと目を向けた。
「いや、そんな事ないよ。良く似合っている。凄く綺麗だったから驚いただけ」
「相変わらずお上手だね。でも良かった。反応がなかったから、洋服選びを失敗したかと思って心配しちゃった」
「ごめん、ごめん。ところでここはどこなの?ってあれ?」
俊介が周りを見渡すと、景色がガラリと変わった。
草原の真っ只中にいたはずが、いつの間にかログハウスの中へと移動していたからだ。
「驚いた?さっきいた所は私のお気に入りの場所で、今いるのは私の家。驚かせようと思って、転移用の魔道具を使ったのよ」
そう言って笑うレベッカは、なんだか自慢げだ。
レベッカの元に訪れて早々に、驚かされっぱなしの俊介だったが、使えなくなったはずのスキルが機能している事に気付いた。
「え?あれって冗談じゃなかったの?」
俊介がスキルの事を告げると、レベッカは驚いた様子だった。
やっぱりかそうか。
俊介は前日送ったメッセージの返信内容から、とある仮説を立てていた。
おそらくは、スキルが使えなくなったのは俊介とカトリーヌの二人だけ。レベッカを含む三人は問題なくスキルが使えているようだった。
だから俊介は、その原因が自分もしくは、住んでいる世界のどちらかにあるのだろうと予想していた。
どうやら後者が正解だったようだ。
「だったら俊介の世界に行って、私がスキルを使えなくなれば確定だね」
「そうだね。じゃあ、早速試してみよっか」
頷き合い、早速移動を開始する。
せっかく来たばかりではあるが、興味の方が先走ってしまったのだから仕方がない。
「ここはどこなの?」
「俺の家。悪いけど、靴脱いでもらえる?」
俊介に指摘されて靴を脱ぐレベッカ。文化の違いに戸惑っている様子だった。
そんなレベッカの後ろ姿に俊介は目を奪われていた。
服の裾から覗くレベッカの足があまりにも理想的だったからだ。ひざ裏からふくらはぎ、そして足先へと続くラインは実に美しい。特に細く引き締まった足首は何とも言えない魅力を醸し出している。太腿が見えないのは残念であるが、揺れる裾から見える僅かな部分が俊介の想像力を刺激する。
「あっ、本当にスキルが使えない!」
レベッカの声を聞いて我に返った俊介は、そう言えばスキル使用の有無についての検証中だったと、今更ながらに思い出したのだった。
スキルが使えないのは、やはり場所が影響していたようだ。もしかしたら、元々スキル等の概念がない場所では使用ができないのかもしれない。
まぁどうでもいいか。
美しい脚の前では、スキルごときに大した価値はないのである。
「ねぇ、せっかくだからこっちで遊ぼ!どっか楽しい所に連れてってよ」
予定とは違うが、それも良いだろう。
興味深そうに俊介の部屋を見渡すレベッカの後姿は、大人しめの服を着ているにも拘らず、前日より遥かに色っぽく見えた。




