21.帰還
家に帰った俊介は、恥ずかしさで苦悶していた。
あの時、セリナに家に来ないか?と伝えた時の事を思い出していたのだ。
『ありがとうございます。でも……』
小さく首を振るセリナに、俊介は問いかけた。
『戻ったら危険なんですよね?』
『はい』
『だったら……』
俊介の言葉にセリナは困ったように笑い、主催者の方へと視線を向けた。
『しばらくこちらに住み込みで働かせて頂ける事になったんです。ですから……』
つまりは完全に俊介の空回りだった訳である。
セリナの安全が確保できたなら、それ以上俊介がどうこう言える立場ではないのだ。
「まぁ、いっか」
絨毯の上に仰向けに寝転がり、ぼんやりと天井を眺めながら呟いた。
正直、誘ったはいいが、実際にこの家に来ていたらそれなりに大変だった事は、想像に難くない。
それに俊介は、セリナ以外の連絡先カードも貰っているのだ。
一緒に暮らす事になったら、他の人達と連絡が取れる訳もないのだから。
せっかく知り合った人達とも、仲良くなりたいというのが俊介の本音だ。セリナに対して好意は持っているが、それが恋愛感情かと問われれば、首を振らざるを得ない。
まだ今日出会ったばかりなのだから。
僅か二時間程度の婚活パーティーだったが、随分と濃い時間を過ごしたように感じていた。あの短時間で、色んな人達と出会い、会話を交わしたのだ。
そう思い、俊介は婚活パーティーを振り返る。
よくよく思い返してみれば、あまり上手い立ち回りではなかったように思われる。中間チェックの時に丸を付けた五人の内、四人の連絡先を手に入れたと思えば大金星ではあるのだが、最初しか話せなかった相手がいるのも事実なのだ。
「まぁ、仕方ないか」
一人きりの部屋の中でボソリと呟き、身体を起こした。
俊介は、手元にあるセリナを含めた六人分の連絡先カードへと目を向けた。
「どうしよっかな」
せっかく貰った連絡先だが、さすがに全員と連絡を取る気はない。
正直言えば、お礼くらい伝えたい所ではあるが、そうすると相手にこちらの連絡先が知られてしまう。そうなれば、お礼だけで済まなくなる事が目に見えていた。
俊介は少しだけ考えた後で「ごめんなさい」と呟きながら、メリーさんとメアリの連絡先カードを、そのまま引き出しの中へとしまった。
残りの四枚の連絡先カードを本体の少し厚めのカードに重ねると同時に、それらは本体を残してスッと消えてしまった。初めから分かっていた事ではあるが、実際に目にすると驚かずにはいられない。
本体のカードに登録された四人の名前を俊介は確認して、ニヤリと笑った。
セリナ、レベッカ、カトリーヌ、ルルと順番に表示させて、なんと送ろうかと頭を悩ませる。しばらく考えた後で、俊介は全員に同じメッセージを送る事にしたのだった。
『今日はありがとうございました。俊介です。すごく緊張したけど○○さんのおかげで楽しめました。ところでせっかく貰ったスキルが、パーティー会場限定だった事を知ってショックを受けました。慰めてください。(笑)』
○○の所だけそれぞれの名前を入れて、他は同じ。
完全に手抜きではあるが、どうせバレるはずがないのだから問題はないという俊介の考えは、最低ではあるが、理に適っていた。
スマホと違い、絵文字はなく、記号も少ない為、飾り気はないが仕方がないだろう。
俊介は再度内容を確認してから、順次送信を開始した。
全員にメッセージを送り終わった俊介は、ぼんやりと連絡用のカードを眺めていた。空気中の魔力を集めて、それをエネルギーに変えるというこの不思議なカードだが、俊介にはさっぱり原理が分からなかった。
いや、そもそも普段使用しているスマホでさえ、技術的な事を理解しているかと言えば、ノーと言わざるを得ないだろう。知識を持っていないのに、いくら考えた所で無駄なのだ。
俊介は大きく欠伸をすると、連絡用カードをスマホの隣に置いて、風呂へと向かったのだった。
婚活パーティ―での事を思い出しながら、俊介は上機嫌で頭を洗っていた。
「何て返って来るかな?」
ポツリと呟き、ニヤニヤと笑う俊介は、決して人には見せられない表情をしている。
身体を洗い終え、鼻歌を歌いながら、風呂から出た俊介は、ガシガシと濡れた頭をタオルで拭いた。
身体を拭き終えると、首にタオルをかけたままパンツ一枚の姿で歩き、冷蔵庫から缶ビールを取り出す。プルタブをあけ、一気に半分程飲み干した俊介は幸せそうな表情で息を吐き出した。
この姿を今日、連絡先カードをくれた女性達が見たら一体どう思うことだろう。
そんな事を考えながら、連絡用カードへと視線を向けた。
「おっ!」
連絡用カードの一部が水色に点滅している。
どうやら誰かから返信があったようだ。
「だーれっかな?」
カードに触れて確認すると、受信メッセージは二件あるようだった。
表示を押して、先へと進む。
表示されたのは、レベッカとカトリーヌの二人の名前だった。
まずはレベッカから来たメッセージを開く。
『お疲れ様。連絡ありがとう。カップルになれなくて残念だったけど、一体誰を選んだのかな?選んで貰えなくてショックだったよ。だから逆に慰めて』
ごめんなさい。
心の中で謝りつつも、その顔は若干ニヤけている。そこに書かれている内容が、レベッカの本心ではないにしろ、嬉しいモノは嬉しいのだ。
何と返信しようかと考えつつも、俊介は一旦レベッカからのメッセージを閉じた。
「先に両方読ませてもらいますかっ!」
独り言を呟いて、カトリーヌからのメッセージを開いた。
『メッセージありがとうございます。まさか俊介さんから連絡が来ると思っていなかったから、嬉し過ぎて叫んでしまいました。私の叫び声を聞いて、心配して部屋に入って来てしまった皆への言い訳に苦労しました。(笑)
スキルはショックですよね。俊介さんが元気になるようにパワーを送ります。えいっ、とどけー!』
なんだこれ……。
カトリーヌが可愛い。
ゴリラなのに……!
婚活パーティーが終了しました。
ここからようやく本番です。パーティーはあくまで出会いの場。
連絡を送った四人との関係は如何に!?




