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20.マッチングタイム

 主催者に従い、中間チェックの時同様に、男女それぞれが壁沿いに一列に並んだ。

 俊介の側からは、反対側の壁に並ぶ女性陣が良く見える。そうしていると、レベッカと目が合ったので、何となく手を振ってみた。

 するとレベッカだけでなく、なぜかその両隣にいたカトリーヌとメリーさんもこちらに手を振っていた。彼女達三人は互いにそれに気付いて微妙な顔をしている。

 俊介はそれを見て、クスリと笑った。


「それではこれよりマッチングタイムへと移らせて頂きます。マッチングカードに、気に入った異性の方の番号を最大で五名まで記入してください。くれぐれも番号を間違えないようにお気を付けください」

 主催者の言葉を聞きながら、マッチングカードへと目を向ける。

 そこには一位から五位まで、番号を書くところが用意されている。気に入った順に、番号を書けという事らしい。

 俊介は女性陣へと視線を向けた。


 どうしようか……。

 今の所、俊介が気になっている相手はレベッカとセリナの二人だ。

 しかしレベッカには連絡先カードを渡してあるし、セリナからは貰っている。そう考えると、わざわざここで選ぶ必要性があるのかと少々疑問に感じてしまうのだ。

 あまり褒められた考え方ではないが、よりチャンスを広げるには、別の相手を選ぶ方が賢いように思える。

 しかし……。

 ここでレベッカかセリナのどちらかとカップリングする事ができれば、より好感度や親密度といったモノが上がるようにも思えるのだ。

 

 俊介は散々迷った挙句、セリナ、レベッカ、ルルの三人の番号をマッチングカードに記入した。そして残っていたもう一枚の連絡先カードは、ルル宛に届くようにメモを添えて、回収に来たスタッフに渡したのだった。


 さて投票したら、集計する為の時間が必要になってくる。

 再び元の席へと戻った参加者たちは、一様に居心地の悪い時間を過ごす事になる。

 それも当然、直前に目の前にいる相手を含めて、自分が一方的な評価をくだしているのだから。それは目の前にいる相手も同然ではあるのだが、やはり結果が出るまでは落ち着かないのは、参加者全員に共通した事だろう。

 しかしそれでも、どこにでも例外はいる。

 いや、本人達はそわそわしているつもりなのかもしれないが、その内面がほんの僅かも外に出ないのは、凄い事なのだろう。

 全体的に落ち着きない雰囲気の中で、唯一俊介とレベッカだけは楽し気に会話を交わしていたのだった。


「集計が終わりましたので、男性から順に退出してください。その際、胸に付けて頂いた番号札と交換に、集計結果をお渡しいたします。今回はなんと、五組ものカップルが成立しました。見事カップリングされていた方は、外で待っていて頂き、ぜひ男性側から、お相手の方に声を掛けてあげてください。また今回のパーティーですが、積極的な方が多いようで、連絡先カードもこちらにたくさん集まっております。カップリングしてない方でも、連絡先カードを貰った方は、ぜひ連絡してみてください。もしかしたら、そこから恋が始まるかもしれません。それでは準備ができた男性の方はこちらへどうぞ」

 主催者の言葉を聞き終えた俊介は、レベッカに声を掛けた。

「今日はありがとうございました。連絡くるの待ってるから」

「うん、楽しみにしてて」

「了解。またね」

 軽く手を振って、俊介は出口へと向かったのだった。


「お疲れ様でした」

 そう言ったスタッフから渡された水色の封筒には、俊介の付けていた番号札と同じ一番の文字が書かれていた。

 やや厚みを感じる封筒を持って、部屋を出た俊介は後から出て来る人の邪魔にならないように、隅の方へと移動すると、早速封筒を開けたのだった。


 うわっ。

 中身を見た俊介は驚いた。

 集計結果の書かれた紙の確認をする前から、連絡先カードが何枚も入っているのが見て取れたからだ。

 入れ食いだ!

 等と、失礼極まりない事を考えつつ、まずは結果を確認する。

 開いた紙には、おめでとうございます。という文字と、紙いっぱいに書かれたハートマーク。その中心には八番と書かれていた。


 八番って誰だっけ。

 名前で覚えていた為に、番号を見てもいまいちパッとしない。

 自分が最後に書いたはずの相手の番号すら、すでに忘れてしまっているのだ。俊介は仕方なくメモを取り出して確認する。


 あった。

 八番、セリナ、聖女

 それを見つけて、俊介は胸を撫で下ろしたのだった。


 ついでに貰ったカードが誰からの物なのか確認する。

 手元のカードは全部で五枚。

 二番、三番、四番、五番、七番となっている。

 それらをメモと照らし合わせ、小さくため息を吐き出した。


 二番、カトリーヌ、乙女

 三番、レベッカ、サキュバス

 四番、メリー、ストライク、一千万円以上

 五番、ルル、癒し系、お散歩デート

 七番、メアリ


「あの……」

 後ろから声を掛けられ、振り向くとそこにはセリナが立っていた。

「あっ、ごめんなさい。俺から声かけるべきでしたよね」

「いえ、大丈夫です」

 俊介は急いで手元の連絡先カードを封筒に入れると、しっかりとセリナへと身体を向けたのだった。


「なんだか照れますね」

「はい……」

 互いに恥ずかしそうに笑い合う。

 その姿は実に初々しい。彼らと同様のカップルが全部で五組。それぞれの交流を少し離れた所から、主催者が温かい目で見守っていた。

 そしてカップルになれなかった者達はすでにこの場にはいない。

 部屋から出た瞬間に、元いた世界へと送還されているからだ。


 そんな事を知らない俊介達は、完全に自分達の世界に入り、会話を楽しんでいた。

 しかし、ここで大きな問題が浮上してきた。


 セリナの境遇だ。


 この婚活パーティーの会場に来る直前まで、セリナは拘束されていたのだ。

 本来なら、それぞれが元いた世界に帰る事になるのだが、この状況でセリナを送り返す訳にもいかない。

 覚悟を決めた俊介は真っ直ぐにセリナの目を見て、自身の持つスキルとそれで得た情報の事を正直に伝えたのだった。


「そうだったんですか……」

「すいません。勝手に過去を覗き見るなんて、本当に失礼ですよね」

「本当ですよ……。でも、どうしてそれを私に伝えたんですか?黙っていれば分からない事だったのに……」

「さあ?自分でもよく分かりません。ただ、セリナさんに嘘をつきたくなかったので……」

 二人の間に沈黙が舞い降りた。

 そして少しの逡巡の後で、セリナが口を開いた。

「私も……」

「なに?」

「私もシュンスケさんに隠している事があります」

 続く言葉に俊介は驚いた。

 セリナも俊介同様に秘匿スキルを持っていた事。

 同時にもう一つ、相手の嘘を見破る真偽判定のスキルを所持していたのだ。それは人の汚い面をたくさん見て来たセリナには、なくてはならないスキルだったのかもしれない。

「話してくれてありがとう」

 セリナに向けて笑いかける俊介の顔は、どこか安心しているように見える。

「私が怖くないですか?嘘を見破るって凄い事ですよ?」

「それを言うなら、神眼スキルを持っている俺も同じだよ」

「ありがとうございます」


 互いに隠し事を話してしまった事で、随分と心理的な距離が縮まった。

 それを感じた俊介は、セリナに向けて本題を切り出した。


「それで……。帰るところがないなら、家に来ませんか?」





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