2.婚活は異世界で
如何にも歴戦の戦士といった大柄の男がガチガチに緊張しながら歩く姿は滑稽で、本人には申し訳ないが、気を抜けば噴出してしまいそうだ。
とは言え、彼のおかげで落ち着きを取り戻す事ができた。
受付の順番待ちをしていた山田俊介は、手に持っている不思議なカードへと目を向けた。
ここに来たきっかけは実にくだらない。
酒の席での同僚の惚気話。
その出会いは婚活パーティだったことを聞いた俊介は、帰りのタクシーの中で興味本位で検索し、酔いに任せて適当に申し込んだのだ。
翌朝後悔して、すぐに取り消そうと立ち上げた画面。
そこに書かれていたのは、すでに過ぎたキャンセル期限。
強引にキャンセルする事も可能だったが、その場合はキャンセル料が発生してしまう。
俊介は盛大な溜息と共に、参加の意思を固めたのだった。
一体どんな人がくるのだろうか。
今まで俊介は、婚活パーティにあまり良いイメージを持っていなかった。
如何にもモテないような容姿や性格の人達が集まる場。何も知らない癖にそんな固定観念を持っていた。
それがどうだ。
参加した同僚の話では決してそんな事はなかったそうだ。現に同僚の彼は上手い事やって、可愛い彼女ができたのだ。
偶々運が良かっただけかもしれないが、そうじゃないかもしれない。
結局は予想の域を出ないのだ。
ならば人生経験と割り切って行くしかないだろう。
もしかしたら良い出会いが待っているかもしれないのだから。
ダメならダメで笑い話のネタになる。
そうやって自分に言い訳をして、参加を決意した婚活パーティー。
当然、ごく普通のものを想定していた。
だというのに……。
普通じゃないと気付いた時には、既に手遅れだった。
開催日当日に、指定場所である市営のイベント会館へと足を運んだ。案内に沿って辿り着いた一つの部屋。そこで参加費の一万円を支払った。他の婚活パーティーに比べて、やや高めではあったが、他とは違い、女性も同額の一万円となっていた為に、興味を惹かれて選んだのだ。
一通りネット上で確認した所、大抵の場合は男女で金額の差が大きかったのが、俊介には印象的だった。男性が六千円から九千円程度に対して、女性がゼロ円から二千円程度。中には参加する事で金券等を貰えるといった所まである始末だった。だからどうこう言うつもりは毛頭ないが、男の立場は随分と弱いものだと思わずにはいられなかった。
だがまぁ、それはいい。
前から分かっていた事だし、仕方がない事だと割り切っているのだから。
問題はその後だ。
料金と引き換えに受け取った一枚のカード。手に持って僅か数秒後の事だった。気付けば、目に映る景色はガラリと変わっていた。
同時に頭の中に入って来た幾多の情報。
――ありえない。
しかし、いくら否定しても変わらない事実。
目に映る範囲には、まるでコスプレ会場のように様々な姿をした人達。
されどそれはコスプレ等ではなく……。
そう、そこは俊介が暮らしている日本ではなかった。
俊介は婚活パーティーに参加する為だけに、異なる世界へと連れて来られたのである。
しかもだ。
俊介が訪れたこの世界は、どうやら婚活パーティを行う為だけに創られた世界であるらしい。
よってこの世界に住人は存在しない。
つまり今日ここに集まった参加者全員が、様々な異なる世界から参加しているという事になる。
当然そんな事は、突然ここに連れて来られたばかりの俊介が知る由のない事実である。
しかしどういう訳か、そういった様々な情報が頭に次々と浮かんでくる。
それは完全に俊介の理解の範疇を超えていた。
こんな時、どういった行動にでるのが普通なのだろうか。
俊介に至っては、あまりにも現実離れした事実に直面した為に、却って冷静であった。
チートは貰えないのかな?
そんな場違いな事をぼんやりと考えていたほどだ。
過ぎた驚きは案外、人を冷静にするのかもしれない。




