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19.ミニゲーム2

 なんとかメリーさんとの会話を終わらせる事に成功した俊介は、セリナへと視線を向ける。しかし悲しい事に、すでに別の男性と話をしていた。

 少し待ってみるも、まだしばらく終わる気配はない。

 俊介は肩を落としつつ、周りを見渡した。

 すると、楽し気に会話を交わす人達の中に、所在なさげに佇んでいるカトリーヌを見つけた。そんなカトリーヌが、どうしてか気になった俊介の足は、自然にそちらへと向かっていたのだった。


「宜しければ、話し相手になって貰えませんか?」

 俊介がキザったらしく声を掛けると、顔を上げたカトリーヌは、まるで花が開くように嬉しそうに笑った。

「はい、喜んで!」


「もしかして俺が来るのを、待っていてくれたんですか?」

 少しお道化た様子で話す俊介は、知らず知らずのうちにカトリーヌを元気付けようとしているようだ。

「えっと、そうかもしれません」

 下を向き、耳を真っ赤にしたカトリーヌの言葉は果たして演技なのか、本心なのか。

 どちらにしてもカトリーヌがゴリラである事には変わらない。


「早速ですけど、好きな異性のタイプを教えて貰って良いですか?」

「そうですね……。私を女として見てくれる人が良いです」

 カトリーヌは小さな声で「絶対にありえないですけど……」と呟いた。

 その言葉をしっかりと聞き取った俊介だったが、敢えて聞こえないふりをした。

「何言ってるんですか。カトリーヌさんは滅茶苦茶乙女じゃないですか。今日ここにいる人達は、みんな女として見ていると思いますよ。少なくても俺はそう思っています」

「――ありがとうございます。優しいんですね」

「本心ですよ」

 それは俊介の心からの言葉だった。

 確かにカトリーヌはゴリラだ。

 ゴリラではあるが、その中身は完全に乙女のそれなのだ。俊介からしたら、カトリーヌは立派な女性であると言えた。


「ではシュンスケさんは、どんなタイプの方が好みなんですか?」

「俺の事を頼ってくれる女性が好きですね」

「頼るですか?」

「そうです。やっぱり男として頼られたいじゃないですか」

 俊介は自らの胸を軽く叩いてみせた。

 ゴリラの方がよっぽど強いだろうけど……。

 精神的なモノは別だって事で。

 目の前にいるカトリーヌを見ながら、俊介はそんな事を考えていた。


 カトリーヌとの話を終えて、再びセリナを探す。

 すると、先程と同じ男性が今もセリナの前に立って話を続けていた。

 どうしたものかと俊介が辺りを見渡すと、主催者が時計を気にしていた。

 ヤバ……。

 このままセリナと話せずに終わるのはどうしても避けたいと思った俊介は、小さな勇気を振り絞って歩き出した。

 向かった先は当然セリナの元。

 先程から話し込んでいる相手がいるのだが、このまま指をくわえて見えている訳にはいかないのだ。

「お話し中、申し訳ありません。セリナさんとお話しさせて頂いて宜しいですか?」

 丁寧な言葉を使いながらも、強引に会話に割り込んだ俊介は、男性側から舌打ちが聞こえた。

 まぁ、そうだよな……。

 良くは思われないだろう事は承知していたが、こうもあからさまだと、いっその事清々しい。どうやって言葉を続けようかと考えていると、向こうが先に口を開いた。

「今俺が話し……」

 しかし男の言葉はセリナによって遮られた。

「構いませんよ。ゲームの質問も終わっていますし、私もシュンスケさんとお話ししたかったですから」

 その言葉を聞いた男は、俊介を一睨みした後で、セリナに挨拶をして去って行った。

「良かったんですか?」

「はい。せっかくシュンスケさんが来てくれましたので」

「そう言って貰えると嬉しいです」

 セリナの言葉に俊介の頬は自然に緩んだ。それは、この日何度もした作り笑いなどではない純粋な笑顔だった。


「私は優しい人が好きです」

 ありきたりだなと思った俊介だったが、表情を変える事無くセリナへと問い返す。

「優しい人ですか?」

「はい。私の住んでいる世界は争いが絶えない所でしたから。そういうのとは無縁の人が良いです」

 しかし返って来た言葉に、俊介は罪悪感を感じた。

 自分という人間は、どうしてこんなにも薄っぺらいのかと思わずにはいられなかった。


 しばらくセリナとの会話を楽しんでいると、終了の声がかかった。

「終わっちゃいましたね」

 名残惜しそうに俊介はセリナを見た。

「はい……。でも連絡先カードをお渡ししたんですから、絶対に後で連絡くださいね」

 セリナはそう言うと、俊介の返事も聞かずに席へと戻っていった。


「楽しんでこれた?」

 最後に座っていた席へと戻った俊介に、レベッカが話しかけて来た。

「まぁまぁかな。レベッカさんは?」

「同じね」

 そう言って見せてくれたのは、ゲームで使用した用紙。レベッカのそれは、五つのハート全てが埋まっていた。

「さすがですね」

 同じように俊介も四つが埋まった自分の用紙をレベッカに見せたのだった。


 さてこのミニゲーム、実はこれで終わりではなかった。

「では私が言った事と同じ内容があれば、それを丸で囲んでください。最初に五つ全てに丸が付いた方には賞品として、異性にあげれば想いが伝わると噂のチョコレートを差し上げます。手に入れた方はぜひ、気になる異性に渡してみてください。尚、効果に関しては保証できませんので悪しからず、ご了承ください」


 せっかくのゲームではあるが、四つしか回答が埋まっていない俊介には、残念ながら貰える権利はないようだった。

 レベッカと会話しながら、ゲームの成り行きを見届ける事にした。

 

「五つ全てに丸が付いた方は手を上げてくださいね」

 そんな主催者の声に反応するように、すぐに手が上がった。

 誰かと思って目を向ければ、満面の笑みを浮かべたメリーさんがいた。


 こうして婚活パーティーの交流は一通り終了した。

 後に残すのは、好意を寄せる相手に投票するマッチングタイムのみである。





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