表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/44

18.ミニゲーム1

 フリータイム終了と共に告げられたのは、ミニゲーム開始の報せだった。

 俊介とレベッカは会話を中断して、主催者の言葉に耳を傾けた。

「これよりミニゲームの説明をさせて頂きます。まずはハートが五つ書かれた紙を準備してください。その紙の上部にある四角い枠の中に、好きな異性のタイプは?と記入してください。これから異性の方、五人に対して、今書いて貰った質問をして頂き、返ってきた答えをハートの中に記入してください。その際、男女ともに外見と収入に関する回答は禁止とさせて頂きます。これが今回のパーティー最後の交流になります。もし、まだ話し足りないという方は、悔いの残らないように、積極的に話しかけてアピールしてください。それでは全員立ち上がって、ゲームを初めてください」


 促されるように立ち上がった俊介は、机と机の間を抜けてレベッカの方に移動しながら、手に持った紙をヒラヒラとして見せた。

「聞いても良いですか?」

「知りたい?」

「ええ、とっても」

「仕方ないなー。特別に教えてあげる」

「ありがと。でもアレの大きい人ってのは、なしにしてね」

「えー、ダメ?」

「ダメです!」

「ケチ」

 如何にも不満ですと言った表情をするレベッカが、あまりにも可愛く見えて、俊介はついついその頭を撫でていた。

「そんな表情かおしないで教えてよ」

「――わかった」

 俊介に頭を撫でられて、レベッカは少し不満げに見える。

「ごめん。嫌だった?可愛かったからつい……」

 それに高さも丁度良かったから。

 という後に続く言葉はのみ込んだ。

 レベッカの頭は、俊介の顎の辺りにあり、手を伸ばすには丁度良い高さにあったのだ。

「嫌じゃないよ。ビックリしただけ」

「そっか。なら良かった。それで好きなタイプは教えてくれるの?」

「いいよ。私が好きなのは……」

「――え?」

 予想外の回答に、俊介は一瞬固まってしまった。

「攻める時は強気の癖に、意外に打たれ弱いのかな?」

 レベッカの言葉で冷静さを取り戻した俊介は、先程言われた言葉を頭の中で反芻した。


『私が好きなのは、頭を撫でてくれる人』


 ちくしょう。

 ヤラレタ……。

 たった一言で立場を逆転させられてしまったようだ。

 しかし悪い気分ではない。

 ただ気を付けないと、レベッカに惚れてしまいそうだと俊介は思った。


 レベッカに自分の好みのタイプを告げた後、俊介はセリナを探して移動を開始した。

 最初に連絡先カードを貰ったはいいが、それっきりになってしまっていたからだ。しかし、何とか見つけ出したセリナは、誰かと会話中のようだった。

 タイミングの悪さを残念に思った。

 俊介は少しだけ近くへ移動して、タイミングを伺っていると、後ろから声を掛けられた。


「私メリーさん、今あなたの後ろにいるの」


 嘘だろ……。

 俊介の背中を冷たいモノが流れ落ちる。

 まさか婚活パーティーで命の危機に直面するとは思ってもみなかった。

 しかし、俊介は自身の内面を一切表に出すことなく、前を向いたまま、気楽な調子で言葉を返した。

「それって振り向いたらいけないやつですよね?」

「どうかしら?たぶん大丈夫よ?」

「たぶんてなんですか?たぶんて?滅茶苦茶怖いんですけど……。絶対に振り向けません!!」

 内容とは裏腹に、俊介の言葉はふざけているかのようだ。

「全然そんな風には見えないんだけど……。でも仕方ないから前に回ってあげる」


 俊介の前へとやってきたメリーさんは、少しご機嫌斜めのようだった。

 それを瞬時に見抜いた俊介は、咄嗟に言葉を紡ぐ。

「来てくれてありがとうございます。やっとお話し出来ました。メリーさんモテ過ぎですよ。フリータイムの時に近づく事さえ出来なかったんですから」

 思ってもいない事をぺらぺらと。

 よくもまぁ、言葉が出るものである。口先だけでどれだけの修羅場を潜り抜けてきたのやら……。


「そ、そう?なら仕方ないわね。私って罪な女ね」

 笑顔になったメリーさんを見て俊介は安堵した。

 そして、その笑顔を壊さないようにゲームの質問を投げかける。

「それでモテモテのメリーさんは、どんなタイプが好きなんですか?」

 言った瞬間、メリーさんの表情が曇った。

 ――ヤバイ。

 同時に俊介は、その理由に思い至った。

 最初のトークタイムの時に同じ質問をしていたからだ。俊介は、この状況を誤魔化す為に、慌てて言葉を継ぎ足した。

「さっき教えてくれた、引っ張っていってくれる人ってやつ以外で教えてください」

 一瞬にしてにこやかに戻ったメリーさんを見て、俊介は危機を乗り越えた事を知ったのだった。


「私が後ろにいても平気な人がいいの」

 そんな奴いねーよ!

 喉まで出掛った言葉を俊介は必死で飲み込むと、メリーさんに向けて微笑んだ。

「メリーさんならではですね。待ち合わせとかで後ろから、だーれだっ!?なんてやられたら、きっとイチコロですね」

 物理的に……。

「そう!それなの!!」

 俊介の心の声に気付く事無く、ご機嫌なメリーさんは、嬉しそうに理想のデートを語った。それを適当に聞き流しながら、会話の終わりを探す。

 レベッカを相手にしていた時とは違う、なんとも虚しい心理戦が繰り広げられていたのだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ