18.ミニゲーム1
フリータイム終了と共に告げられたのは、ミニゲーム開始の報せだった。
俊介とレベッカは会話を中断して、主催者の言葉に耳を傾けた。
「これよりミニゲームの説明をさせて頂きます。まずはハートが五つ書かれた紙を準備してください。その紙の上部にある四角い枠の中に、好きな異性のタイプは?と記入してください。これから異性の方、五人に対して、今書いて貰った質問をして頂き、返ってきた答えをハートの中に記入してください。その際、男女ともに外見と収入に関する回答は禁止とさせて頂きます。これが今回のパーティー最後の交流になります。もし、まだ話し足りないという方は、悔いの残らないように、積極的に話しかけてアピールしてください。それでは全員立ち上がって、ゲームを初めてください」
促されるように立ち上がった俊介は、机と机の間を抜けてレベッカの方に移動しながら、手に持った紙をヒラヒラとして見せた。
「聞いても良いですか?」
「知りたい?」
「ええ、とっても」
「仕方ないなー。特別に教えてあげる」
「ありがと。でもアレの大きい人ってのは、なしにしてね」
「えー、ダメ?」
「ダメです!」
「ケチ」
如何にも不満ですと言った表情をするレベッカが、あまりにも可愛く見えて、俊介はついついその頭を撫でていた。
「そんな表情しないで教えてよ」
「――わかった」
俊介に頭を撫でられて、レベッカは少し不満げに見える。
「ごめん。嫌だった?可愛かったからつい……」
それに高さも丁度良かったから。
という後に続く言葉はのみ込んだ。
レベッカの頭は、俊介の顎の辺りにあり、手を伸ばすには丁度良い高さにあったのだ。
「嫌じゃないよ。ビックリしただけ」
「そっか。なら良かった。それで好きなタイプは教えてくれるの?」
「いいよ。私が好きなのは……」
「――え?」
予想外の回答に、俊介は一瞬固まってしまった。
「攻める時は強気の癖に、意外に打たれ弱いのかな?」
レベッカの言葉で冷静さを取り戻した俊介は、先程言われた言葉を頭の中で反芻した。
『私が好きなのは、頭を撫でてくれる人』
ちくしょう。
ヤラレタ……。
たった一言で立場を逆転させられてしまったようだ。
しかし悪い気分ではない。
ただ気を付けないと、レベッカに惚れてしまいそうだと俊介は思った。
レベッカに自分の好みのタイプを告げた後、俊介はセリナを探して移動を開始した。
最初に連絡先カードを貰ったはいいが、それっきりになってしまっていたからだ。しかし、何とか見つけ出したセリナは、誰かと会話中のようだった。
タイミングの悪さを残念に思った。
俊介は少しだけ近くへ移動して、タイミングを伺っていると、後ろから声を掛けられた。
「私メリーさん、今あなたの後ろにいるの」
嘘だろ……。
俊介の背中を冷たいモノが流れ落ちる。
まさか婚活パーティーで命の危機に直面するとは思ってもみなかった。
しかし、俊介は自身の内面を一切表に出すことなく、前を向いたまま、気楽な調子で言葉を返した。
「それって振り向いたらいけないやつですよね?」
「どうかしら?たぶん大丈夫よ?」
「たぶんてなんですか?たぶんて?滅茶苦茶怖いんですけど……。絶対に振り向けません!!」
内容とは裏腹に、俊介の言葉はふざけているかのようだ。
「全然そんな風には見えないんだけど……。でも仕方ないから前に回ってあげる」
俊介の前へとやってきたメリーさんは、少しご機嫌斜めのようだった。
それを瞬時に見抜いた俊介は、咄嗟に言葉を紡ぐ。
「来てくれてありがとうございます。やっとお話し出来ました。メリーさんモテ過ぎですよ。フリータイムの時に近づく事さえ出来なかったんですから」
思ってもいない事をぺらぺらと。
よくもまぁ、言葉が出るものである。口先だけでどれだけの修羅場を潜り抜けてきたのやら……。
「そ、そう?なら仕方ないわね。私って罪な女ね」
笑顔になったメリーさんを見て俊介は安堵した。
そして、その笑顔を壊さないようにゲームの質問を投げかける。
「それでモテモテのメリーさんは、どんなタイプが好きなんですか?」
言った瞬間、メリーさんの表情が曇った。
――ヤバイ。
同時に俊介は、その理由に思い至った。
最初のトークタイムの時に同じ質問をしていたからだ。俊介は、この状況を誤魔化す為に、慌てて言葉を継ぎ足した。
「さっき教えてくれた、引っ張っていってくれる人ってやつ以外で教えてください」
一瞬にしてにこやかに戻ったメリーさんを見て、俊介は危機を乗り越えた事を知ったのだった。
「私が後ろにいても平気な人がいいの」
そんな奴いねーよ!
喉まで出掛った言葉を俊介は必死で飲み込むと、メリーさんに向けて微笑んだ。
「メリーさんならではですね。待ち合わせとかで後ろから、だーれだっ!?なんてやられたら、きっとイチコロですね」
物理的に……。
「そう!それなの!!」
俊介の心の声に気付く事無く、ご機嫌なメリーさんは、嬉しそうに理想のデートを語った。それを適当に聞き流しながら、会話の終わりを探す。
レベッカを相手にしていた時とは違う、なんとも虚しい心理戦が繰り広げられていたのだった。