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17.フリータイム3

 次は……。

 俊介が立ち上がった時、ルルから少し離れた所にいるヒカリが、目の前の男性をじっと見つめているのが目に映った。

 やってるな。

 思わず感心した俊介は、ヒカリの持つ印象操作スキルの発動条件を思い浮かべる。


 印象操作:対象と十秒以上見つめ合う事で、その時に対象が自分から受ける印象を操作する事ができる。操作可能な時間は二時間。尚、時間が過ぎた後も操作した相手の印象は固定される。


 十秒って長いよな。

 そんな事を思っていると、ヒカリと向かい合っていた男性が視線を逸らして立ち上がっていた。どうやらヒカリの表情を見る限り失敗してしまったらしい。すでに移動時間になっている訳だから、もしかしたら何度も挑戦してダメだったのかもしれない。

 ドンマイ。

 心の中でヒカリを応援して、俊介は足早に移動を開始した。


 レベッカとセリナのどちらに行こうかと迷った俊介だったが、すでにセリナに向かっている人がいる事に気付いて、レベッカへと目標を絞った。

 危うく他の人に先を越されそうだったが、間一髪のところで俊介に軍配が上がった。

 まるで椅子取りゲームみたいだと思いつつも、無事にレベッカの前の席を取れた事にホッとした。

「あの人もここに座りたかったみたいだけど、俺で良かったですか?」

「どうかな?ちゃんと楽しませてね」

 悪戯っぽく笑うレベッカに「頑張ります」と言って、俊介は席に着いた。


 ルルの後にレベッカの元に来たせいか、剥き出しの色気に思わずクラッとしてしまいそうになる。サキュバスであるレベッカは、おそらく超が付くほどのビッチだ。

 もし仮に付き合ったとしても、自分では満足して貰えず、他の男の元へと行ってしまう。そんなイメージが付き纏う。それは勝手な偏見である事は、俊介自身も分かっている。分かってはいてもそう思ってしまうのだから仕方がない。

 理性と感情とは別物なのだから。

 最低だな。

 自分の考えに嫌気が差しながらも、それを表情には出さないのは、さすがと言わざるを得ないだろう。


「いつもそんなセクシーな服を着てるんですか?」

「気になる?」

 何気ない俊介の質問に、レベッカは妖艶に微笑んで自身の胸元を軽く引っ張った。伸びた服の向こう側に覗く深い谷間に釘付けになってしまう。

「またそうやってからかって……。気になるに決まってるじゃないですか」

「やり手そうに見えて意外に初心なのね」

「初心かどうか確かめてみますか?」

「いいの?」

「もちろん良いですよ」

「楽しみにしてるね」

 余裕の表情で微笑むレベッカを見て俊介は小さく笑った。

「なんかこれ逆じゃないですか?」

「え?」

「普通は男から誘うものだと思うんだけど?」

「確かにそうかも。でも私サキュバスだから……」

 そう言って笑うレベッカの表情が、俊介にはどこか寂し気に見えた。

 もしかしたら、ただの見間違えだったのかもしれないし、俊介の勘違いだったのかもしれない。

 次の瞬間には、さっきまでの軽い調子に戻ってしまっていたから。

 でも俊介は、ほんの一瞬だけ見せたレベッカの寂し気な表情が、彼女の素の部分のように思えて仕方なかった。


「嫌じゃなければ、これ貰って」

 差し出したのは俊介の連絡先カード。

「え?急にどうしたの?」

 俊介の行動が予想外だったのだろう。

 レベッカの慌てる姿が俊介には新鮮だった。

「俺のは貰えない?」

「そうじゃなくて……。もしかして本当に私とエッチしたくなっちゃった?」

「そう思う?」

 そうやって問い返す俊介にさっきまでの緩んだ表情はどこにもない。

 真っ直ぐに見つめるその姿は真剣そのもの。

 おずおずと手を差し出したレベッカは、俊介の手から連絡先カードを受け取った。

「本当にいいの?」

 俊介は頷き「今度デートでもしようか。エッチなしで」と微笑んだ。


 俊介自身、自分の行動に驚いていた。

 しかしその事に欠片も後悔はなかった。

 ビッチだからどうとか考えていたくせに、レベッカの寂し気な表情を見ただけで、どうしても放っておもけなくなってしまったのだ。

 それはただの気まぐれだったのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。

 ただただ、あの一瞬の表情が今も頭から離れないでいた。


 俊介が連絡先カードを渡してから、急にレベッカはしおらしくなってしまった。

 陽気に振る舞っているようで、目の奥では俊介を伺っているような、そんな状態。サキュバスであるレベッカが、ただこれだけの事で、どうしてここまで変わってしまうのかと俊介は疑問に思って、問いかけた。

「どうしたの?」

「どうもしてないよ。なんで?」

「なんかそわそわしてるから」

「そんなことな」

「あるよ」

 言葉を遮った俊介に、レベッカはほんの少し拗ねたように、視線を逸らせた。

 そんなレベッカを俊介はじっと見つめる。

 言葉を発する事無く、ただじっと。

 レベッカが何かを言うのを待っていた。

「なによ?」

 根負けしたレベッカが発した言葉に俊介は微笑んだ。

「別に。可愛いなと思って見てただけ」

「ばか……」

 そんなレベッカを見て、俊介は連絡先カードを渡して良かったと思った。

 今目の前にいるレベッカはまるで別人のように見えた。これが素の彼女なのか、それともこれすらも演技なのか。俊介には分からない。

 それでも俊介には、今のレベッカがとても魅力的に見えていた。

 余裕ぶっていたその表情の裏に隠されていたレベッカの弱さ。

 そのレベッカの弱い部分が、俊介の心を捕らえて離さない。

 俊介はどうしようもないほどに……。


 レベッカを滅茶苦茶にしてしまいたいと思った。





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