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15.フリータイム1

 トイレから戻った俊介は、最後に座っていた席に座った。

 目の前にはすでにアオイがいたので、何となく「ただいま」と口にした。

 アオイは少し驚いたようだったが、苦笑しつつ「おかえりなさい」と返してくれた。

 腕時計を見ればまだ休憩時間が五分程残っていたので、アオイと雑談をして過ごす。特に話したい内容が思い浮かばなかった俊介だったが、無言で向かい合っているのが苦痛に感じたのだ。適当に会話をしていると、そこにリンが入って来たので三人で会話をする。

 とりとめのない会話。

 休憩という事で、どうも気が抜けてしまっているようだ。


 そうしていると、先程回収された中間チェックカードが返された。

「そろそろ休憩は終わりになります。今返却した中間チェックカードですが、赤丸がついていいれば、異性の方があなたの番号に丸を付けてくれた事になります。丸が付いていたらチャンスですので、積極的に話しかけに行く事をお勧めします」

 アオイやリンに見られないように気を付けながら、俊介は自分の中間チェックカードに目を通す。

 おっ!

 その結果に思わず喜びが込み上げる。

 まだ婚活パーティーの途中ではあるが、思いの外多くの丸が付いていたからだ。

 なんと一番のロンと九番のリン以外の全員が俊介に丸を付けてくれたらしい。ただメリーさんも丸を付けているという事実が若干怖くはあるが、それはまぁ何とかなるだろう。


「それでは、これからフリータイムに移りたいと思います。女性はそのままで、男性はお話ししたいと思った女性の所へ移動してください。その際、必ず今の席から移動するようにしてください。今の席に座ったままでいるのは、なしとさせて頂きます」

 主催者の話を聞きながら、しっかりと配慮されているなと俊介は思った。

 いくら自由だからと言っても、目の前の相手が自分の場所から離れていったら良い気分はしないだろう事は予想できる。しかし、こうしてルールとして移動を強制してくれるなら、その辺りを気にせずに移動できる訳だ。

「それではフリータイムを始めたいと思います。男性は移動をお願いします」

 主催者の合図で一斉に男性陣が動き始める。

 その動きは思いの外早く、俊介は少し出遅れてしまった。

 気付けばすでに席はほとんど埋まってしまっていた。まだ埋まってない場所も人の動きからすぐに埋まるだろう事が予想出来る。

 パッと見たところ、残っているのは、カトリーヌとメアリくらいだろう。

 小さくため息を吐き出した俊介だったが、迷うことなくカトリーヌの元へと足を向けた。


「お話しさせて頂いても良いですか?」

 残っていたから仕方なく。そんな気持ちは欠片も見せないように俊介はカトリーヌに笑いかけた。それどころか、初めからこの場所を狙っていたかのようでさえある。

「はい、どうぞ」

 そんな俊介にカトリーヌは耳を赤くしてしまう。

 最初のトークタイムの時に、散々弄られた事を思い出したのかもしれない。俊介がカトリーヌの反応を観察していると、主催者が何やら話をしていた。

「お互いに忘れている事もあると思いますので、改めてプロフィールカードを交換しましょう。今回は十分間とさせて頂きます。こちらのテーブルに軽食を用意しましたので、食べながら会話を楽しんでください」


「という訳ですので、交換しましょうか?」

 俊介がプロフィールカードを差し出すと、カトリーヌは「はい」と頷いて、それに倣った。

 そして俊介が先導する形で、二人で軽食を取りに行く。

 一緒に列に並ぶと、意外にもカトリーヌの背は低く、俊介の肩より少し低い位置に頭が来ていた。

「思っていたより小っちゃいんですね」

 自然と俊介の手が伸びてカトリーヌの頭をポンポンとしていた。

 ヤバッ。

 相手はゴリラだったと思い出したが、今更遅い。

 顔を赤くしてしまったカトリーヌに、俊介は苦笑するしかなかった。


 テーブルの上に並べられていたのは、オードブルとサンドイッチ、それからデザートが少しといった具合だった。

 スタッフの指示の元、それぞれ自分の食べる分だけを紙皿にとって席へと戻っていく。

 俊介もそれに倣い、カトリーヌと会話しながら、食べる分を適当に選んだ。

「シュンスケさんは何を飲みますか?」

 紙コップを片手に持ったカトリーヌの前には、瓶に入った飲み物が並べられている。

「それじゃあ、ウーロン茶をお願いします」

 多くの人が自分の事だけに目が向いている中で、自然に動いたカトリーヌに俊介は感心した。ゴリラのような外見に似合わず、甲斐甲斐しい性格をしているようだ。


 席に戻り、改めてカトリーヌと向かい合う。

 やはり何度見たところで、カトリーヌがゴリラである事に変わりはないようだ。

 

 食事をしながら会話をすると、どうしても食べ物の話題になりがちだ。

「カトリーヌさんは苦手な食べ物はありますか?」

「苦手な物ですか?」

「はい」

「えっと、私はパセリが苦手です」

「おっ、俺も同じです。パセリは飾りですよね」

 俊介の言葉にカトリーヌは嬉しそうに微笑んだ。

「はい。そう思います」


 どこからどう見てもゴリラにしか見えないカトリーヌであるが、こうして会話をしていると、その事が気にならなくなってくるから不思議である。

 食事がそうさせているのか、単に相性が良いのか、それとも別の理由からなのか。真実は分からない。しかし、いつの間にか俊介はカトリーヌとの会話を楽しんでいた。

 ゴリラである事さえ気にしなければ、カトリーヌは俊介にとって理想的な相手だと言えた。

 そう、ゴリラでさえなければ……。


 外見で人を判断すると反感を買ってしまうだろう。

 だからと言って、外見を完全に無視する事は難しい。

 結局のところ、中身と外見、どちらも大切なのだ。


 十分が経過した事を伝える主催者の声が室内に響いた。

「時間になりましたので、男性はまた移動してください」

 それを聞いた俊介はカトリーヌにお礼を言って、立ち上がる。

「あの……」

「どうかした?」

 首を傾げる俊介はいつの間にか、カトリーヌに対して敬語が取れている事に気付かない。

「いえ……。えっと、シュンスケさんとお話し出来て楽しかったです」

 何かを必死に伝えようとしているその姿は、俊介には眩しく見えた。

 あの手この手で、女性をおとそうとする俊介だが、カトリーヌのように、真っ直ぐな相手には弱い。なぜならそんな相手には、俊介も真っ直ぐに向かい合わずにはいられなくなるから。

「俺も楽しかった」

 再度お礼を言った後で、俊介はカトリーヌに手を振ってその場を離れた。




 

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