14.中間チェック
「お疲れ様でした。これでトークタイムの方を終了とさせていただきます」
主催者の言葉を聞きながら、俊介は小さく息を吐き出した。
戻って来たプロフィールカードをバインダーに閉じながら、視線を上げればアオイと目が合った。俊介は小さく微笑んで「お疲れ様」と声を掛けた。
「お疲れ様です」
優しい笑みと共に返ってきた言葉に満足して、再び主催者の方へと顔を向ける。
「これから中間チェックに移りたいと思います。男性は私の右手側、女性は左手側の壁の方にそれぞれ移動してください。移動されましたら私に近い側を一番として、番号順に並んでください。それでは、準備が整った方から移動をお願い致します」
ぞろぞろと移動を開始した周りの人達に合わせて俊介も立ち上がった。
指示通りの場所に移動して周りを見渡せば、随分と異様な光景に思えた。良い歳した大人達が、胸に番号札を付けて並んでいるのだ。
何も知らずにこの光景を見れば、どう思う事だろう。
おおよその移動が完了すると、主催者側から中間チェックカードを取り出すように指示があった。指示に従って取り出したカードには、一番から二十番までの数字が書かれていた。
「気に入った異性の番号に丸を付けてください。丸の数は最大でも五つまでとしてください。全員に丸を付けるような事はくれぐれもないようにお願い致します。また、特に気に入った方がいない場合でも、最低一人には丸を付けるようにしてください」
説明を聞きながら、俊介は誰に丸を付けようかと考える。
反対側の壁際に一列に並ぶ女性陣に目を向ければ、エリー(ロン)とメアリが一際美しさを誇っている。しかし残念ながら、どちらも選ぶ事はないだろう。
女性達の印象は、何となくは頭に入ってはいるが、短時間で様々な相手と話をした為に、忘れてしまったり、情報が混ざってしまっている気がする。
俊介はメモを取り出して、女性達と見比べる事にした。
一番、エリー(ロン)
二番、カトリーヌ、乙女
三番、レベッカ、サキュバス
四番、メリー、ストライク、一千万円以上
五番、ルル、癒し系、お散歩デート
六番、ヒカリ、同級生
七番、メアリ
八番、セリナ、聖女
九番、リン、同盟
十番、アオイ、幽霊
時間がなかったとはいえ、思った以上に雑なメモを見て、俊介は少し反省した。
それでもメモを見れば、多少は思い出す事もある。
俊介は多少迷いつつも、丸を五つ付けた。
選んだのは、二番、三番、五番、八番、十番だ。
一番と七番は論外として、四番はストーカーだし、六番は同級生で、九番とは同盟を組んでいるのだから選ぶ必要はない。そう考えると自然と残りの五人が選ばれた訳だ。
俊介は丸を付けた番号に間違えがない事を確認すると、満足げに顔を上げた。
「そろそろよろしいでしょうか?スタッフが回収に行きますので丸を付けたカードを渡してください。その際、カードの右上にご自分の番号が書かれているか、確認をお願いします。書き忘れが無いようにお願いします。その後は十分間の休憩とさせて頂きますので、ご自由にお過ごしください。もちろん休憩時間にアプローチして頂いても問題ありません。それではカードを渡した方から休憩に入ってください」
回収に来たスタッフにカードを渡した俊介は、とりあえずトイレに行く事にした。
特に行きたい訳ではなかったが、この部屋に居続けるのも微妙である。それに気分転換を兼ねて少し身体を動かしたかったのだ。
トイレに向かうと、俊介と同じような考えの者がいたのか二人の男性がいた。一人は受付で見た歴戦の戦士といった大柄の男で、もう一人は線の細い学者風の男だった。さりげなく二人の番号をチェックすれば、大柄の男が四番で、学者風の男は七番だった。
俊介はリンとの話を思い出し、なんて声を掛けようかと考えながら中に入れば、トイレ自体は日本のそれとほとんど変わらなかった。全てが魔法で管理されているらしいが、どの辺りに魔法が使われているのか、俊介にはさっぱり分からない。
ぼんやりと用を足していると、学者風の男が話しかけてきた。
「誰が一番好みでしたか?」
突然の質問ではあったが、渡りに船とばかりに俊介はそれに答えた。
「正直悩みますけど、サキュバスの方はエロくて最高でした」
「あー、あの胸は最高ですよね」
学者風の男と話しながら、俊介は視線を大柄の男に向けた。
「好みの相手はいましたか?」
その視線に気付いた大柄の男は少し考えた後、低い声で答えた。
「今はまだ何とも言えないな」
「そうですか。そう言えば、ドワーフの方が歴戦の戦士を思わせる大柄の人がカッコ良かったって言ってましたよ」
俊介の言葉に、大柄の男が勢いよく反応した。
すごい勢いで俊介の方に顔を向けた男は、目を見開いていた。
「それは本当か?」
「あっ、はい」
あまりの勢いに驚いた俊介が頷くと、男は厳つい顔を緩めて機嫌よくトイレから去って行った。
その様子に呆気にとられた俊介と学者風の男は、顔を見合わせて笑った。
彼が手を洗ってない事には、敢えて突っ込まなかった。
「驚きましたね」
手を洗いながら隣を見ると、学者風の男も俊介に同意した。
「いや、本当に驚きましたよ」
そんな男に俊介は問いかける。
「それでさっきの話ですけど、誰か好みの相手はいましたか?」
「そう言えば、そんな話をしてましたね。僕はエルフのエリーちゃんが一番好みですね。顔も性格もあのおっぱいも最高だと思いませんか?」
その言葉に同意しながら、俊介は目の前の男を少し憐れに思った。しかしそれだけだ。名前も知らない彼に余計な助言は不要だろう。
「頑張ってください」
素直に応援して笑いかけた。
「そっちもね」
彼の爽やかな笑顔が、少しだけ眩しく感じた。
真実を知らない方が幸せな事もあるだろう。
ロン君頑張れ!
俊介は心の中で、エールを送った。