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12.リン

「お兄さんやり手だね」

 俊介が席に着くと同時に話しかけて来たのは、小学校高学年くらいの容姿の女性だった。

 ドワーフである彼女の名前はリン。

 どうやら、先程セリナから連絡先カードを貰った所を見られていたらしい。

「お恥ずかしい」

 苦笑しながらプロフィールカードを交換し、改めてリンと挨拶を交わした。


 プロフィールカードを見れば、二十五歳で仕事は彫金師らしい。

 持っているスキルは、集中力上昇と器用さ増大。神眼スキルで視た内容と同じモノだった。

「ところで、こんな短時間でどうやって口説いたの?」

 目を輝かせたリンが、声を潜めて俊介に問いかける。

「それは教えられないな」

 同情されて渡されたなんて、言えるはずがない。

 しかも勘違いだったのだから、尚更だ。

「そこをなんとか」

 手を合わせて懇願する姿は非常に愛くるしい。

「どうしようかな?」

 話す気など欠片もないが、ついついそんな言葉が口から漏れる。

「どうしたら教えてくれるの?」

「そうだな。じゃあ今度ご飯でも付き合ってくれたら、その時に教えるよ」

 それは言い換えれば、リンに連絡先を教えろと言っているようなものだった。

 しかし賢いリンはすぐに俊介の意図に気付いた。遠回しに答えを教えてくれたのだと。

 もちろん事実とは違う訳ではあるが、真実をそのまま話すよりも現実味があり、こういった方法をとる事で、俊介は嘘をつかなくて済む。

 咄嗟に考え付いた方法ではあったが、なかなかの良案だったと俊介は思った。


「なるほどね。そんな手を使ったんだね。簡単に教えてくれるなんてお兄さんやっさしー!」

「何の事かな?それでご飯には付き合ってくれるの?」

 適当に誤魔化し、あわよくばと思考を巡らせる俊介だが、リンの幼い外見を見て少しばかり後悔もしていた。

 本当に誘いに乗って来てしまったらどうしよう。

 日本でリンとデートすれば、もしかしたら通報されてしまうかもしれない。

「うん、いいよ。だからお兄さんの連絡先カードちょうだい」

 にこやかに笑いながら手を差し出すリンの姿に俊介は苦笑した。

 どうやら立場が逆転してしまったらしい。

「ありがとう。最後にカップルになれたら、その時に渡すね」

「そうきたかー。やっぱりお兄さんやり手だね」

 婚活パーティ―の最後には、全員が意中の相手のナンバーを紙に書いて主催者に渡す事になっている。もし気に入った相手がいない場合は白紙でも構わない。

 その際に、見事にナンバーが合致した場合はカップルとなり、連絡先を交換するという流れになっているのだ。

 もちろんカップルとならずとも、相手に連絡先を渡す方法やタイミングは多々ある。しかし、カップルになるかどうかで、お互いに与える印象は大きく変わる事だろう。

 つまり俊介は、自分を選んでくれたならという条件を、遠回しにリンに提示した事になる。


 目の前で笑顔を絶やさないリンとの会話は非常に楽しかった。

 しかし同時に彼女が俊介を選ばないだろう事が、わかってしまう。

 上手く言葉で言い表す事はできないが、何となくリンが俊介と同じタイプのような気がしていた。当たり障りのない言葉で会話しつつも、注意深く相手を探り、自身の経験でもって見極めようとするその姿は、まるで獲物を狙うハンターそのものである。

 なるほど、自分はこんなふうに見えているのか。

 そんな事を考えながら、俊介はリンと相対する。


 幼い外見とは裏腹に、恋愛経験豊富なリンだが、俊介のようなタイプと出会ったのは初めてだった。日本では決して珍しい存在ではないが、堅物ばかりのドワーフに囲まれて暮らしていたリンには、俊介の存在は異質に感じた。

 その存在に興味を惹かれるが、きっと相手の方が上手であり、いつの日か掌で転がされる未来が見えてしまうような気がした。

 手を出すべきじゃない。

 そう判断したリンは、おそらく正しい。


 表面上は楽しく会話しつつ、水面下で探り会う二人は三分という短い時間の中で、お互いに相手の意図を察した。そして辿り着いた結論もまた同じモノだった。


 どちらが先に誘導を始めたのだろうか。

 気付いた時には、互いに協力し合おうと握手を交わしていた。

「それでお兄さんの狙いはやっぱりお隣さん?」

 その言葉に俊介は頷いてみせる。

 本心は違う所にあったが、リンの隣の席に座っているセリナがこちらの話を、気にしているのに気付いたからだ。

「そっか。因みに私は二番の人ね」

 チラリと俊介の隣に目をやるリン。こちらに意識を向けている俊介のお隣さんにわざとアピールしているようだ。

 やはり似た者同士。

 この状況を利用して、しっかりと種を撒くその姿勢に苦笑したくなる気持ちをグッと抑える。


 それでいてリンの手元では、メモ用紙の裏面にスラスラと別の事を書き込んでいた。

"今の所本命は四番。如何にも歴戦の戦士って感じの大きな人。もし機会があったら、それとなく私を売り込んでおいてね。それでお兄さんは?"

「わかった。タイミングがあったら探りを入れてみるね」

 受付で会ったあの人かな?等と考えながら、俊介もリンの真似して手を動かす。

"五番の黒髪ショートカットの人"

 それを見たリンは頷いて、了承の意を示してくれた。 


「よろしくね」

「うん、お兄さんもよろしく」

 そうやって互いに黒い笑顔を浮かべながら、同盟を結んだのだった。






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