第6話 –葛藤–
オリジナル小説です!
かつて最強と呼ばれた少年ユマが、ひょんなことから出会った少年アキと共にかつての仲間を探し求める。運命に導かれるままにそれぞれの過去と想いが交差する王道ファンタジーです‼︎
下手ですが見ていただけたら嬉しいです(*^^*)
元々、傷は存在していた。
俺たちは騎士団に所属していたから、訓練や実戦で多少なりとも傷が付くのはもはや必然だ。特にユマは何時も前線に出て戦うやつだったから生傷が絶えなかった。
しかし、傷跡はあってもそれらは古傷だ。俺たちは7年前のあの日、それぞれ騎士団を離れたのだから。
だけど、実際にこの目で見たものは古傷などではなかった。包帯が剥がれ落ちた背には小さな傷から大きな傷まで、真新しい無数の傷跡で埋め尽くされていた。
明らかに異常だった。よく怪我をするやつではあったが圧倒的な強さ故にそこまで大きな怪我をするやつでもなかった。それに、何故戦いから離れていたはずのユマが当時よりも傷だらけでボロボロになっているのか。…一体この7年間で何があったのだろうか…
「…ユズキ、どうかしたの…?なんかさっきからボーッとしてるけど…」
「来たばっかりなのにもう逆上せたのか?」
温泉の湯に浸かりながらボーッと考えていると、隣で同じように湯に浸かっていたカイとアキが心配して声を掛けてきた。
「…いや、何でもねーよ。逆上せてもない。」
カイの頭をグシャリと撫で、心配かけないよう軽く笑みを浮かべてそう言った。
考えてみれば、ユマが一緒に来なかったのはおそらく俺達に自分の傷だらけの身体を見せないためだろう。
「…相変わらず、バカだな…」
「バカ⁉︎心配した俺に向かってバカだと!」
「あー、もう限界!俺先に上がるね‼︎」
俺がポツリと零した言葉に、アキが食いついて来たと思ったら、今度はカイがそう言って勢い良く湯から上がって行き、他に誰もいない湯の中でポツンと俺とアキの2人が残される。
「……別にお前に言ったわけじゃない。」
不満気にジトリとした視線を向けてくるアキにウンザリしてきて訂正の言葉を口にした。
「え?じゃあ、誰に言ったんだよ…?」
「お前、何でユマと旅することになったんだ?」
「無視⁉︎…まぁいいや。ユマが馬鹿騎士達数人を軽くいなしてるの見てさ、面白そうだなと思って無理やり付いて来た!」
「…何だそれ…」
アキはユマのことをどれくらい知っているのだろうか。ふと疑問に思い、聞いてみると脱力するような答えが返って来た。
ユマといい、アキといい、アイツといい、どうしてこうも俺の周りには調子を狂わすような人種が多いのか…。
まぁともかく、この調子だとアキも何も知らないのだろう。
剣の腕といい、アキは何者なのか。そんなことはどうでもいい。ただ、
「…裏切ってくれるなよ、ユマの信頼を。生半可な気持ちならユマとはここで別れろ。」
ユマはこいつを信じているようだから、アキにはここで選択させなければいけない。ユマのためにも、アキのためにも…。あの時の二の舞いにならないように。
「俺はユマを裏切ったりはしないよ。ユマと旅するの楽しいし。」
「楽しいだけじゃない、どんな状況になるかもどんな危険なことがあるかもわからない。それでもそう言えるか?」
「俺に付いて来ない方がいい、そう言ったユマに俺は無理やり付いて来たんだぜ?」
断言したアキに再度そう問うと、そんな答えが返って来た。太陽のように眩しく笑ってそう言ったアキに俺はすっかり毒気を抜かれてしまい、
「…ならいい。」
そう一言だけ口にした。
「–––––ユズキも一緒に来るんだろ?」
「…は?」
さも当然のようにそう言ったアキに思わずそんな言葉が漏れた。
「来ないの?ユマのこと随分心配してるみたいだから事情知ってるのかと思ったけどそうじゃないみたいだな。」
「事情?何か知ってるのか…?」
何も知らないのかと思っていたが、どうやらアキは何か知っているようだ。何かわかるかもしれないと思い問い返すと、よくわからない答えが返って来た。
「ん?何か魔王を倒しに行くんだって。」
「…は?魔王…?」
「魔王。」
「魔王って何だ?」
「さぁ?」
魔王、はっきりそう言うアキに俺は混乱した。
まず魔王とは何を指しているのだろうか?
魔王というものが実際に存在するのか、それとも王のことを魔王と言っているのか、よくわからないが、俺にはどちらも信じられなかった。
前者は言わずもがな、魔王なんてものが実際に存在するとは思えない。後者は、俺の知っている王はユマに倒されるような邪智暴虐な魔王ではないからだ。今のこの国の状況は正直最悪だが、きっと何か事情があるのだろう。この国の王が信頼できる人物なのは誰よりもユマ自身が知っていることだ。
「……お前ユマに騙されてるんじゃないのか…?」
考えれば考えるほどよくわからないが、俺が思うにユマはきっと適当なことを言って誤魔化したのであろう。ユマはそういう奴だ。
「え?嘘なのか⁉︎」
「…まぁ、わからねーけど。」
結局、ユマがここに来た理由はわからないままだ。
「うーん…よくわかんないけど、ユマはユズキに力になってもらうためにここに来た、それは確かだと思うぞ。俺は魔王を倒すために仲間を探しに来たんだと思ってたんだけど…」
「……俺は…」
アキの言っていることはきっと正しい。だけど、それはつまり裏を返せば1人では解決できない状況にまで陥っているということだ。
アキの言葉に俺は揺らいだ。
***
「–––––あ、ユマ!」
「遅かったな!用って何だったんだ?」
「また彼奴らが来るかもしれないからお前らが風呂入ってる間見回ってたんだよ。」
温泉から出て来て、カイの家まで歩いていると丁度向こうからユマがこっちに向かって歩いて来た。
カイとアキに向かって、先程見たものがまるで夢だったかのようにユマはいつも通りの調子で平然とそう言った。
「…そうだったんだ。」
ユマの言ったことに何やら思うところがあったのか、そう言ったカイの表情は少し悲しげだった。
「ありがとう、ユマ…」
「ん、何が?さて、俺もせっかくだし温泉行って来るかな。」
感謝を伝えたカイにユマは優しく笑うと惚けたようなことを言って温泉の方へ歩いて行った。
「…どうした?カイ。」
「え…?あ…」
すっかり元気が無くなってしまったカイに声をかけるとカイはそんな返答をしてそのまま黙ってしまった。少しの沈黙の後、再びカイが口を開く。
「……俺がもっと強かったら、そしたら村の皆を守ることができて、それで…それなら、ユズキが自由になれたのに…」
そんなことを言ったカイに驚いた。俺の迷いはどうやらカイには見透かされていたらしい。
「馬鹿、お前は十分頑張ってる。…それに、俺のことなんて考えなくていい。」
カイが気にする必要なんてない。そう思ってそう言って先を歩くが、正直この先どうするべきかの決断が出来ずにいた。
***
「なんだ、ここにいたのか。」
「…ユマ。」
カイの家の裏手の方にある丘に座ってボーッと村を見渡していると、後ろから丘を登って来たのであろうユマが声を掛けてきた。
「そっちは大盛り上がりだな。」
俺とユマから少し離れた所で、アキの話を楽しそうに聞いているカイを含めた村の子供達の方を指してユマは笑ってそう言うと、俺の隣に腰を下ろした。
「あぁ……で?」
「ん?」
「…お前何でいきなりこんな所まで来たんだ?」
「会いに来たって言っただろ?」
「茶化すな。」
「本当だよ。…お前に用があって会いに来たのはホント。」
俺の問いに対してユマは悲しげに笑ってそう答えた。再会してからずっとこんな調子だ。どこか無理しているような、そんな表情。昔から弱みは見せないやつだった。だけどもっと屈託無く笑うやつだったんだ。
「用って…」
「用があったんだけどなー。…ま、大した用じゃないから。」
大した用じゃないはずがない。だからこんな所まで来たんだろう。そんなことくらいはわかる。ユマはきっとわかっているんだろう。俺がここを離れたらこの村がどうなるのかを。その事でカイが俺を案じたように。
「…ユマは今まで何してたんだ?」
「うーん…村でのんびりしてたかな。」
「…そうか。」
ユマの言っていることが本当ならその背の傷は何なのか。俺が見た限り、本当は剣を振り上げて戦うことですらきついのだと思う。
「そういえばリリは置いて来たのか?」
何気なく聞いたことだった。しかし、ユマはそのことに対して少し言葉を詰まらせた。
「…リリは…置いて来た。城で元気にしてるよ。」
表情を変えずにそう言ったユマだが、俺にはより一層哀しげに聞こえた気がした。
「…いい村だな、ここ。…あいつにも見せてやりてーよ。」
丘から見渡せる村全体を見ながら、ユマはそう言った。
あいつとはリリのことなのか、それならどうしてそんなにも哀しげに見つめるのだろうか。…リリのことを話すユマはいつも穏やかに笑っていたのに。
しかし、そんな表情も徐々に消え去り、村を見つめたままユマは言った。
「なぁ、ユズキ。今の現状…どう思う?」
「…最悪だな。俺達が居た頃はこんなじゃなかった。それが、7年前のあの日から騎士団は徐々におかしくなっている気がする。」
そう答えると、ユマは固い表情をしたまま何を考えているのか黙り込んだ。
「…元凶は何だ?……王か…そうでなければ…」
「リアンじゃない。」
思案していると、ユマははっきりとそう言った。ユマの言っていることが正しいのだとしたら、国王ではないのなら、行き着く答えは1つだった。
「……カナメ…か…?」
真実なんてわからない。そもそも一体何があったのかすらもわからない。だけど、ユマの表情と言葉が、決して無関係などではないと語っていた。
「…カナメ…ね……今すぐにでもぶっ殺してやりてーよ…」
憎悪とそれを上回るほどの深い哀しみが込められた酷く冷たい響きを帯びてそう言ったユマは放って置いたら何をするかわからないくらいに酷く危うい。
俺はユマに救われたから、今度は俺がユマの力になる。…そう決めていた。だけど、俺がこの村を離れてユマについて行ってもしまた騎士達が来たらこの村はどうなる?……俺はこの村を守らなければならない。もう失うわけにはいかない。
ユマは全てわかっているのだろう。だから俺に何も言わない。例えどんなに助けを求めていてもユマは俺の意思を尊重してしまう。…そういうやつだから放って置けない。
村を離れることはできない。だけど、ユマを放って置くこともできやしない。…俺は、どうすればいいのだろうか。
「…ユマ…俺は…」
「…悩ませてゴメンな。」
何を言おうとしたのか、口走った俺を遮ってユマがそう言って続ける。
「…昔、俺の為に生きろって言ったけど、もうユズキは大事なものを見つけたみたいだから…俺の為に生きる必要はないんだぞ?」
ユマはそう言って辛そうに笑った。
俺の為に生きろ。
生きる意味も何もかも見失っていた俺を必死に生かそうとユマが言った言葉だ。忘れるはずもない。
もしその言葉が、というよりユマの言葉が無かったら、ユマと出会わなかったら、果たして俺は今この時、生きていたんだろうか。
その圧倒的な強さ故に、大抵のことは1人で何とかしてしまう。でも、今それが出来ないからユマはここに居るのではないか。
与えられてばかりで、俺はまだユマに何も返していない。
この話で一旦ユズキ視点は終了です!
次回はユマ視点に戻ります。
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閲覧ありがとうございました!
次回も見ていただけたら幸せです(*^^*)