第4話 –ユズキとユマ–
オリジナル小説です!
かつて最強と呼ばれた少年ユマが、ひょんなことから出会った少年アキと共にかつての仲間を探し求める。運命に導かれるままにそれぞれの過去と想いが交差する王道ファンタジーです‼︎
下手ですが見ていただけたら嬉しいです(*^^*)
幼い頃、村が賊に襲撃され母と妹が死んでから、生きることに価値を見出せなくなった。
誰も守れずに、守られて1人運良く生き残った自分は生きていても良い存在なのだろうか。生きている意味はあるのか。…ごちゃごちゃ考えている内に、自分が生きることに執着しなくなった。
だけど、とりあえず無力な自分は嫌で、王都の騎士団に入った。
そこで俺はユマに出会った。
「お前名前は?」
「……ユズキ。」
「ユズキか!俺はユマ。よろしくな!」
第一印象はよく笑うやつだった。藍色の髪に水色に輝く瞳、整った顔立ちで綺麗に笑う。そしてとにかく滅茶苦茶強かった。同い年のまだ幼さが残る9歳の子供だというのに、当時の騎士団長と互角に渡り合える程の剣の腕を持っていた。
唯でさえ大人で、子供のユマよりも身体が大きいというのに騎士団長は大人の中でもかなり大きく、その身体から放たれる剣の一撃も半端なく重い。おまけに顔も怖い。そんな騎士団長に物怖じもせず向かっていくような勇猛さも併せ持った、とにかく強いやつだった。
それに、人柄も良かったから仲間にも慕われていた。
「ユズキも親いないのか…俺もいねーよ。父さんは俺が生まれる前に戦場行っちまったから会ったこともないし、母さんはうんと小さい頃に病気で死んだ。育ててくれた爺ちゃんも1年前に死んだ。……まぁ、この時代親無しってのも珍しくはないか。俺の周りも殆ど親いないしな。」
平然とそう話すユマだったが、内包された痛みを感じさせないようにそう振舞っていることはすぐにわかった。
ユマの言う通り、戦争が頻繁に起こるこの時代は男達は家族と離れて戦場に赴かなくてはならず、そのまま大多数の者は戦死する。女達は男手がなくなり1人で子供を育てなくてはならない苦労のせいか病気にかかり亡くなったりするため、親がいない子供というのは特に珍しいことでもなかった。
だけど、珍しくないからといって父や母がいないことが哀しくないはずなんてない。…痛みを抱えながら皆笑っていた。
***
「–––––おーい、ユズキ!ちょっとそこの山頂まで行こうぜ。」
「嫌だ。」
「よし!早く行くぞ。」
人の話を聞け。
突然何か言い出したかと思えば、強引に俺の腕を掴んで引っ張っていく。そんな感じにやたら距離を詰めて来ては調子を狂わされるため、正直俺はユマが苦手だった。
「剣は持ってるよな?この山狼とか猪とか熊とか出てくるから気を付けろよー。」
何でこいつはそんな獣の出没地帯に連れて来たんだ。…俺は故郷の村を出て遥々王都まで来て騎士団に入ったのに、一体何をしているんだか。
そもそも俺はここで強くなって、そしてその後は…?一生をここで生きてここで死ぬのか?
……駄目だ。将来への展望が全く持てない。
「ボーッとしてないで早く来いよー!」
先をどんどん進んで行くユマが遅れて後ろを歩いている俺に向かって叫ぶ。
呑気なやつだ。こいつにもいろいろと事情があるのはわかったけれど、やはり目の前のこいつを見ているとそう思った。この山に入るのは初めてではないのだろうか、慣れた様子でさっさと進んで行く。
ピタリ。前を歩いていたユマが突然立ち止まった。
「来るぞ。」
ユマは前を向いたまま剣を抜き一言そう言うと、やがてザザザとこっちに向かって来る足音が聞こえた。
現れたのは4匹の狼だった。凄い勢いで飛びかかって来る狼に、反射的に構えていた剣で斬りつける。斬りつけられた狼の1匹は赤黒い血を流してその場に倒れ伏した。
…この狼は何をしていたんだろう。食べ物でも探していたんだろうか?それは自分の為?……それとも、子供の為…?
俺は、母と妹、たった2人の家族も守れずに喪って、1人…たった独り生き残り、俺が生きる意味も見出せない。……そんな孤独で空っぽな人間が必死で生きようとしている狼の命を奪っていいのだろうか…?そもそも俺はあの時母と妹と共に死ぬべきだったんじゃないか…
自責、喪失感、孤独、そういった様々な気持ちが迷いとなり、俺の心を占め、判断を鈍らせた。2匹目の狼が自分に向かって飛びかかって来るのを俺は他人事のようにボーッと見ていた。
ガッ
何かを噛みちぎるような音がした。でも痛みは一向に来る気配がない。何で…?そう思い焦点を合わせると、目の前にはユマが立っていて自分の腕を狼に噛ませて食い止めていた。
「剣貸せ!」
ユマは空いている方の手を俺に向けてそう言った。勢いのまま俺はユマに自分の剣を手渡す。混乱する頭で、何故ユマは剣を持っていないのかと思い辺りを見回すと、俺が倒した狼とは別に、血を流し倒れ伏している狼1匹とユマの剣が突き刺さったまま倒れている狼1匹がいた。
答えは明確だ。剣を抜いていたらその間に俺が狼に食い千切られると思ったユマが一瞬の判断で剣よりも俺を優先したから。武器を捨てて前に出るということはつまり、どこかしら自分の身が傷付くということだ。現に目の前のユマの狼に噛み付かれた腕からは赤黒い血がどくどくと流れている。
ユマがかなり無茶をして俺を庇ったことがわかると、沸々と疑問が湧いてきた。何でそこまで…?俺にはそこまでしてもらえる理由がない。だって俺とこいつはただ同じ騎士団に所属しているというだけの唯の他人なのだから。
ユマは俺の剣を片手に握り、狼を突き刺した。噛ませていた腕は解放され、狼はその場に倒れ伏す。ユマはそれを見届けるとクルリと此方を振り返り、未だ血が流れ続けている右腕の右拳で俺の頬を思い切りぶん殴った。
「何してんだ、死にたいのか?」
いつもヘラヘラ笑っていたユマが表情のない顔で淡々と言った。支えきれずドッと地面に尻餅をついた俺を見下ろすユマを俺はポカンとしながら見ていた。
何でユマがそんなに怒っているのかわからなかった。何故そんなに哀しみと安堵の入り混じった瞳をしているのかも。唯一わかったのはユマにこんな顔をさせているのは自分のせいなのだということだ。
「…何でそんなに哀しそうな顔してるんだ?」
「……何で…って…そう見えるんならお前のせいだろ。」
「それはわかるけど…だって唯の他人だろ?俺が死のうが死ぬまいがお前にはどうでもいいだろ…?」
「……はぁ…?」
あ、でも俺が死んだら騎士団が困るのか?でもそれが哀しむ理由になんかならないよな。そう呟くと、心底意味不明とでもいうようなユマは間抜けな声を発した。俺もユマが何を考えているのか全くわからない。
「–––––ッ…あのなぁ、誰だって目の前で死のうとしてる人間を放っておけるわけないだろ!大体ユズキは赤の他人じゃなくて俺の仲間だ。だから、お前に死なれちゃ困るんだよ…」
–––––仲間
ユマが、俺のことをそんな風に思っていたなんて知らなかった。俺は母と妹が死んでからずっと、俺にはもう誰もいない、自分は一生独りで生きていくのだと、そう思ってた。
「お前が俺のことをどう思っていようと、お前にどんな事情があろうと、お前は俺の仲間だ。だから、俺は絶対にお前を死なせてなんかやらない。」
ユマはきっぱりとそう言うと、来いと言って俺の腕を引っ張って立たせると、すぐ側まで迫った山頂へ向かう。言う通りに俺もユマを追って山頂まで来ると、そこには真っ赤な夕日が王都アステリアを赤く照らす景色が見えた。
「うわ…」
山頂から見るその景色はとても綺麗で思わず目を奪われた。それと同時にユマはこの景色を俺に見せたかったのではないかと思った。
「…俺はお前が抱えているものは知らない。だけど、生きていればこれからこんな景色を沢山見れるかもしれない。……それに俺にはお前が必要だ。」
ユマが俺の方を向いて続ける。
「他の誰でもない、自分の為に生きろ。今はそれが無理だって言うなら、俺の為に生きろ!俺はユズキを…仲間を失いたくない。」
ユマの言葉は真っ直ぐに俺の心に響いた。ずっと生きる意味を見出せなかった。だけど、俺を必要だと、失いたくないと、仲間だと、そう言ってくれ、俺の為に本気で怒って哀しんでくれる人間がいる。…それだけでもう十分なのではないかと、そう思った。
グラリ。突然向い合せに立っていたユマが前屈みに倒れる。俺は咄嗟にユマを支えた。
「–––––わ!おい、どうした?大丈夫か…?」
「…や、大丈夫大丈夫…悪い、ちょっと血が抜けすぎただけだから…」
「げ、乗れ。急いでこの山降りるぞ。」
「…ラッキー、帰りは楽できる…」
「言ってる場合か。」
軽口を言いながら俺はユマを背負い、急いで山を降りていく。
「あ〜…帰ったらリリ達に怒られる…帰るのやめない…?」
「やめない。」
「……お前さ、絶対強くなるよ…太刀筋滅茶苦茶いいし…それにさ、お前優しいよな…何か考えてたんだろうけどあの狼殺すの躊躇してただろ…?」
尚も軽口を続けていた俺とユマだったが、何を思ったのか、ふと思いついたのか、いきなり俺を褒めちぎり始めるユマに俺はそれきり閉口し、ユマの話を黙って聞いていた。
閲覧ありがとうございました!
次回も見ていただけたら幸せです(*^^*)