恐怖の支配
俺は今日、友達と一緒にとある廃屋に来ていた。
ここは何年か前にスーパを営んでいたそうだが今はそんな面影はなく、あるのは妙な不気味さを物語るシミがついた壁だけだ。
俺たちがなぜこんなところに来ているかというと、まぁなんとなく察しはつくと思うが肝試しをするためである。
俺は、苦手なので行かないと言ったのだが、誰も俺に耳を傾けず強引に連れてこられてしまった。
肝試しの何が良いのやら。
一緒に来ていたうちの一人、田沼がやけにビビっている様子だった。
「田沼、大丈夫か?」
田沼に尋ねる。
「う、うん、大丈夫だよ」
「とてもそんな風には見えないのだが」
すると、明美が田沼を茶化しに、入ってきた。
「え、もしかして田沼ビビってんの?」
「び、びび、てなんかいないさ」
「思っきしビビってるじゃん」
「う、うるさい!」
田沼が明美に一喝入れると、明美は腹を抱えて笑い始めた。
「まじ、ウケる自分からやりたいとか言っといて、ビビってるとか」
「だから、ビビってないって!」
そうだ肝試しを初めに持ちかけて来たのは、田沼なのだ。
明美が笑う理由もわかる。
「厄助あんたしっかり撮ってる?」
厄助とは俺の事である。
「あぁ、撮ってるよ」
「田沼がビビってるところもちゃんと撮っといてね」
明美がにっこり笑ってそう言う。
「やめてよ!ー」
田沼が半泣きで明美に言う。
自分はビデオカメラを片手に、この場で起きたことを動画に収める係になったので、先ほど明美があのようなことを聞いたのだ。
それにしても明美がそんなにも笑顔でいると、肝試しという感じではなくなる。
俺たちはそんなかんじで肝試しを楽しんでいた。
だが、奥に進んで行くたび会話の数は減り肝試しぽくなってきた。
一歩一歩踏み出すときに鳴る、足音が恐怖の念を一層強めていく。
田沼は相当怖いのか、俺の服の裾を力強く握っていた。
女の子にされたら嬉しいのだろうけれど、相手が男なのでそんな感情は湧いてこなかった。
「本当に、大丈夫か」
田沼の安否を確認する。
「だ、大丈夫だって」
やめたくなったら言えよ」
「う、うん」
田沼は少し震えた声で返した。
明美がここら辺で茶化してくると思ったのだがそんなことはなく、隣にいた明美は、、、、、、、?
え?
いない。
明美がいない。
一体どこではぐれてしまったのだ!?
「おい田沼、明美がいない」
「え?嘘だよね!?」
「嘘じゃない本当だ」
「も、もう帰ろうよ」
「だめだよ明美がいないんじゃ」
「いいじゃないか、別に」
「いいわけないだろ!?」
少し声を荒げて言ってしまった。
「じ、冗談だよ、やだな本気にしちゃって」
「冗談でもそれはよくない」
「ご、ごめん」
田沼は少し俯いて言った。
俺はそんな田沼に声をいきなり荒げてしまったことを謝る。
「ごめん」
「い、いいよ、僕が悪いし」
お互い自分たちの非を謝りあったあと、俺と田沼は明美を探すことに努めた。
だが、なかなか見つからない。
一回、大声で明美の名前を叫んでみたが返事はなかった。
だが、何分か遅れて明美が俺たちの名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
「厄助、今の明美だよね」
「あぁ」
「あっちの方から聞こえたよ」
「行くぞ」
明美の声が聞こえた方に進んで行くと、階段が見えてきた。
「厄助、きっとこの階段の下だよ」
「そうか」
俺たちは階段を下りてゆく。
そしてそこから右に曲がってもう一つの階段をおりようとしたが、明美は曲がろうとした自分の行く手を阻むようにたっていた。
「明美、どこに行ってたんだよ」
「そうだよ」
「ごめん、ごめん、私も気づいたら二人と別れてて」
それにしても良かった。
明美が無事で。
「よし、じゃ行こ、、ん?」
田沼が明美の顔を不思議そうに眺めていた。
そして、田沼は明美に尋ねる。
「なんで、泣いているの明美?」
俺も明美の顔に目をやり気づく。
「本当だ、なんで泣いているんだ?」
明美は満面の笑みになりこう返す。
「最後にあえてよかったなーーて」
「何を言っているんだ明美?」
「僕もわからないよ、明美何を言っているんだい」
明美はそんな俺たちの質問を無視してこう言った。
「バイバイ、今まで楽しかったよ」
「は?どうしちゃったんだ明、」
「バン!」
俺の台詞を縫い合わせるように廃屋内に大きな音が響き渡った。
耳でつーんという音が鳴り止まない。
「なんだ今の音!?」
「さーね」
明美が答える。
「なんか、危なそうだから帰るぞ!」
「うん、そうだね」
低い声でそういう明美。
「おい、お前も帰るぞ田沼、、」
田沼はこんな時だというのに寝ていた。
「おい、起きろよ田沼!どんだけ構って欲しいんだよ」
少し笑いながら自分はそう言った。
「おい、明美もこいつを起こすの手伝ってくれよ」
「めんどくさいし、それ起きないじゃん」
「は?何言ってんだよ」
「だって死んでるじゃん」