真夜中に一人きり(後編)
コーラを飲みながら漫画を読む。
物音がする度に外を確認する。
そうこうする内にコーラはなくなり、漫画も読み終わってしまった。
時計を見るとまだ午後9時前だ。
あと8時間は優にある。
時間配分を誤った。
表に出ると目の前に小さな公園があり、そのわきに自動販売機が置いてある。
公園といってもブランコと鉄棒があるだけの質素なものだ。
英治は小走りで自動販売機へと向かい、缶コーヒーを2つ買ってきた。
そしてパイプ椅子に腰かけると、もう一度漫画雑誌を手に取った。
普段は読んでいない読者コーナーや来週の予告に作者のコメントまで目を通した。
テレビをつけると歌番組があったのでしばらく見ていたが、好きなアーティストは出ていないようなのでチャンネルを変えてみた。
缶コーヒーをチビチビと飲む。
ポテトチップス一袋を2時間かけて食べた。
スマホをとりだしたが、充電が不安なため使えない。
元より普段からLINEもゲームもやっていない。
ニュース番組の梯子も辛くなってきた。
それでもようやく日付が変わる時間でしかない。
徐々に眠気が襲ってきた。
少しくらい眠っても分かりはしないだろう。
それでも英治は眠ろうとはしなかった。
外を見てみると周りのどの家も電気が消えている。
当然だが誰も歩いてはいない。
数時間前までは人通りもあったが、道行く誰もが放火犯に思えていた。
しかし誰も通らないと、それはそれで寂しいものである。
無性に腕立て伏せがしたくなった。
今日は18日なので18回しよう。
突然始めた腕立て伏せだが、疲れと眠気で15回までしかできなかった。
ちょっと公園まで行ってみる。
ブランコに乗ってみたりする。
子供の頃に立ち漕ぎで一回転できないか挑戦していたことを思い出した。
今なら出来るかも。
思いっきり漕いでみた。
ブランコが水平に近くなったとき、ガクンと変な風に揺れて、英治は落ちそうになってしまった。
一回転は無理らしい。
代わりに眠気が吹っ飛んだ。
英治は満足げに笑っている。
今度は鉄棒だ。
胸の高さの鉄棒を逆手で掴むと、勢いよく逆上がりをした。
夜空が回る。
住宅街が回る。
世界が回る。
スタンと着いた両足に、何故か震えを感じてしまう。
いとも容易く逆上がりをきめた。
これが大人の力なのか。
両掌をジッと見る。
そしておもむろに拳を天高く掲げた。
叫びたい気分だったが、そこは理性が静止した。
ちなみに逆上がりは子供の頃から普通に出来ていた。
それでも叫びたい気分なのだ。
そう、真夜中のテンションなのだ。
他の人に見られたら、通報レベルの行動だ。
それから家の中に戻り、パイプ椅子に座って目を閉じた。
椅子から落ちそうになって目を覚ます。
座りなおして目を閉じる。
そしてまた落ちそうになる。
その繰り返しで時間は過ぎていった。
そして夜が明けた。
午前7時ちょうど、さすがにもういいだろう。
英治は戸締りを行うと事務所へと戻った。
事務所の階段が昇れない。
足がこんなに重たいものとは。
なんとかたどり着いた英治は主任に報告をした。
「夜警は無事に終わりました。異常ありません。」
主任は英治の肩をポンと叩く。
「お疲れさん、今日は休みでいいぞ。」
『当たり前だ』と言う気力もないまま、英治は無言で頭を下げて帰宅した。
帰りの車中で『寝ちゃダメだ、寝ちゃダメだ。」と呟きながら。