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就職説明会ですか。(その4)

「みんな事務職が良いっていうんだけど、何が良いのか聞いてみたいな。」

 事務職と言えば英治も事務職なのかもしれない。

 けれどちっとも良くは思わない。

 にもかかわらず、周りの人から『良いですね』なんて言われる。

 本当に何が良いのか疑問でならない。

「あそこのブースが事務職だから行ってみよう。」

 そう言って二人はとあるブースの後列に座ることにした。

「ご来場ありがとうございます。説明が途中からになりますが、よろしいでしょうか。」

 やはりここも若い女性と中年男性のペアである。

若い女性がパンフレットを手渡してきた。

 『よろしくない』と言ったらどうなるのだろうと思いながら、英治は笑顔で頷き腰掛けた。

 そんな英治の妄想も知らず、若い女性に対し微笑み返しの英治にちょっと気分を害した未佳だった。

 会社の大まかな説明は終わっていたが、会社の内容よりも実際の仕事内容の方が重要である。

 とりあえずベアリングの製造大手企業・・・の下請けだということが分かっただけで十分である。

 そこの管理スタッフだというが、何をどう管理するのかが分からない。

 生産管理や収支管理に安全管理、端的に言えばヒト・モノ・カネの管理らしい。

 未佳は全く理解できていない。英治はなんとなくではあるが、今の仕事の延長線だろうと考えていた。

 『将来有望』『人間的に成長』『リーダーシップを発揮』『幹部候補』耳あたりの良い言葉が並ぶが、具体性に乏しい。

 こんな表を作りますとか、ここでこれを見ますとか、これをここに持っていきますとか、そんな説明がいいなあと未佳は思っていた。

「英治くん的にはどうかな。」

「今と仕事は似てるかな。まあ、だったら転職してどうするのってとこか。」

 英治は少し考えた。もっと医療事務とか、はっきり事務だと分かる職種にしてみるか。

 英治はパンフレットにある、病院の事務を指差した。

 すると未佳は首を振る。

「私はカタカナ苦手だもん。アスピリンとかイブプロフェンとか分からないから。」

 なんだか分かっていそうな感じだが、本人申告のもと却下となった。

「バス運転手なんかどうかな。女の人ってよく見かけるから。」

 確かに最近は女性ドライバーが増えてきた。

 車を止める時に、女性同士だと止まってくれるもので、未佳はついつい女性ドライバーを狙ってしまう。

「まずは一ヶ月の合宿で、大型二種免許を取得してもらいます。その間の費用は会社負担ですし、お給料も払いますよ。」

 人の良さそうな中年男性は、笑顔で説明をしている。

 給料をもらって免許がとれるなんて一石二鳥である。

「すみません、すぐ辞めた時はどうなりますか。」

 英治がそう質問すると、一瞬だが中年男性の目がつりあがった。

「免許取得時の費用は弁済してもらいますが、三年勤務されれば、すべての費用は免除となります。」

 当然といえば当然である。三年でいいなら良心的なくらいである。

「ちなみにおいくらですか。」

 中年男性の表情が険しい。

「25万です。」

 他の参加者からもどよめきが起こった。

「大型二種免許を個人で取得するとなると、もっと費用は掛かりますよ。」

 確かにその通りであるが、25万を人質に、辞めたくても辞められないとなりそうだ。

 他の人もそう思ったようだ。この会場にいる人達は、みな一様に就職に不安や不満を抱えている。

 状況によっては簡単にネガティブになってしまう。

「すみません、失礼します。」と数名が立ち去った。

 英治は構わず質問する。

「資料にある賃金ですが、手当含むとありますが、具体的にはどんな手当が含まれているのですか。」

 中年男性は笑顔に戻っているが、はっきりと作り笑いだと分かる。

「通勤手当と残業手当が含まれます。」

「ありがとうございました。」

 そう言って英治は席を立った。

 慌てて未佳も席を立つ。

 中年男性は露骨に嫌な顔をしている。塩でもまきたい気分だろう。

「英治くん、どうしたの。」

「どうもしないよ。必要な情報はそろったから次に行こうよ。」

 何がなにやら分からない未佳の表情を見て、とりあえず休憩所で休むことにした。

 ちょうど丸テーブルがひとつ空いている。

 四つあるイスの隣同士に座ると、未佳は先程のバス会社の話を始めた。

「あの会社は何が悪かったんですか。25万ですか。」

「いや、25万はそんなもんだろうけど。給料がね、バスって朝は早くて夜は遅いだろ。それであの待遇かって思っただけだよ。まあ贅沢かな。」

 英治は未佳を待たせて、飲み物を買ってくることにした。

 会場の入口に自動販売機があり、飲み物は充実している。

 自分用にお茶を未佳用にカフェオレを買って席に戻ると、Tシャツ姿の若い男が、未佳の隣に座って話しかけていた。

「ちょっと、あなたなんですか。」

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