就職説明会ですか。(その3)
まず一通り会場を歩いて回った。
休憩所や面接場所があり、個人ごとに就職相談も受けられるようになっている。
「あのブース何かもらえるみたいだよ。」
大体こういうところでもらえる物といえば、クリアファイルあたりだろうか。でかでかと企業名の入ったクリアファイルは、正直使い勝手が悪い。
「行ってみようよ。」
無垢な未佳の笑顔に嫌とは言えない英治だった。
ノベルティ効果か、人気企業なのか、すでに四人がイスに座っている。
興味がない企業だとしても、その他大勢として参加できるのは好ましい。
「では定員になりましたので、説明会を行います。」
前には二人の採用担当者が座っている。
一人はスーツ姿の中年男性、もう一人は若い女性だ。
どの企業でもこの組み合わせは多いみたいだ。
若い女性で参加しやすいと思わせ、ベテランがしっかりと説明するといった仕組みか。
女性が一人ひとりに手渡しで紙バッグを配る。
中には会社案内と、予想通りのクリアファイルだ。
どうやらここはファミリーレストランのようだ。企業名と店舗名が違うと分からない。
会社案内に沿って店舗の紹介や特色が紹介される。
ファミリーレストランであっても社内でコックを育成し、他店より上質な料理を提供するのが特徴との事。
説明を聞きながら、お腹が空いてきた未佳に対し、ファミレスで上質なんて求めてないし、と思う英治。
十五分ほどの説明を聞き、ようやく店長候補を募集しているんだとわかった。
けれど肝心な店長の仕事が何かよく分からない。
前列に座る誰かさんが同じことを質問したが、回答は「三ヶ月の研修で一から教えます。」だった。
「すごいね、いきなり副店長からだよ。」
「コック以外はバイトだけどね。」
英治は他人に流されない。これは長所であり、短所でもある。
仕事内容もハッキリしないし、イメージ戦略で引き込もうとしているのが見え見えだ。
「とりあえず分かったから次に行こう。」
そう言って英治は未佳をつれて席を立った。
どこのブースも盛況だ・・・と思いきや、まったく人のいないブースもある。
「空いてるとこに行ってみようか。」
誘う未佳に英治は待ったをかける。
人気がないところはそれなりに理由があるはずだ。
パンフレットを開いてみると、人気のないところは肉体労働系であった。
一方で人気なのは事務系やIT系、はたまた名の知れた企業といったところだ。
英治と未佳は肉体労働系に対して偏見はない。だが、今と遜色ないのならば、転職するメリットがない。
「やっぱり週休二日だね。」
「だったら年間休日120日は必要だよ。」
パンフレットを探すまでもなく、年間休日が100日超えがざらにある。
不定休の英治からすると、今の処遇が如何に低いか思い知らされた。
「ボーナスがないところも結構あるんだね。」
「今はボーナスよりも月の手取りを重視する傾向みたいだね。」
つまるところ、月に25万円プラスボーナス60万円よりも、月に30万円ボーナスなしの方が人気なのだという。どちらも同じ年収360万円だというのに。
もっとも社会保険料だったり、将来受け取る年金額だったりには差がでるのだけれど、そこまで深く考える人はまず皆無だろう。
所定労働時間の差まで考えると、給料の差が分かりやすい。
一見高い月給も、休日数が少ないために時給換算だと低かったり、もちろんその逆だってある。
的確に情報を読み取る英治に、未佳は尊敬の眼差しを向けた。
小さな会社とはいえ、指導する立場であり、面接官でもある。
そのことが英治を成長させていたようだ。
「とりあえず条件面は置いといて、職種で選んで行こうか。」




