就職説明会ですか。(その2)
開場の一角にコーンとコーンバーで囲っただけのところに、折り畳みイスが六十脚ほど並べられている。セミナー会場というには寂しい気もするが。
英治と未佳が一番乗りだった。
正しくは、会場に人は大勢いるのだが、セミナー会場にはいないといったところだ。
「前の方からお座りください。」
司会をするのであろう女性が、英治と未佳に最前列に来るよう促す。
英治は当然のように前に進んでいる。
未佳は前列は避けたかったのだが、仕方なしに英治についていった。
最前列までついた時、英治は前方にあるスクリーンをマジマジと見た。
「前の方だとかえって画面が見辛いな。もう少し後ろにしよう。」
そう言って踵をかえすと、中央よりやや後に席を構えた。
やる気を見せながら、前列を回避するという、英治の高等無駄スキル発動である。
「英治くんってさ、すごいんだか、すごくないんだか分かんないね。」
「それってさ、褒めてるんだか、褒めてないんだか分かんないね。」
そう言って、二人で苦笑いをしていた。
「それから、座るならこっちにして。」
そう言って、英治は未佳を通路側に座らせた。
未佳は意味が分からなかったが、すぐに理解できた。
たちまち人であふれかえり、座席は大半が埋まってしまった。
そのほとんどが男性である。英治の隣にも若い男性が座っている。
座席の間隔はかなり狭く、隣同士は密着している。
未佳の隣に男を座らせたくないばかりに、隣のない通路側に座らせたのだった。
「英治くんって場慣れしてるね。」
「学生時代に就職活動を散々してきたからね。」
こういった場が初めての未佳には頼もしい存在だった。
「それでは、就職セミナーを開催いたします。受講生の方は席について下さい。」
受講生たちの半数が、中年以上の男性である。
定年後と思わしき人もいる。
きっとそういう人達には、若者たちが羨ましく映るだろう。
「みなさんこんにちは、本日セミナー講師を仰せつかりました、コンサルタントの・・・」
マイクの調子がおかしいようだ。プツリと電源が落ちてしまった。
講師はすぐにマイクの電源を入れ直して、何事もなかったように語り始める。
セミナーは、正面のスクリーンに投影される情報を説明する形なので、多少聞こえなくても何とかなる。
講師もそう思ったのか、マイクがオンオフを繰り返すが、気にせず講演を続ける。
「いくら売り手市場だからと言って、甘くみては・・・です。・・・に求められるのは・・・なのです。・・・がある人が・・・です。」
講師は拳を握って力説する。その度にマイクはオフになる。
なぜだか大きな声を出すとオフになってしまうみたいだ。
言いたいであろうポイントの度にマイクがオフになって聞こえない。
英治と未佳は、必死で笑いを堪えていた。
「ありがとうございました。講演中、マイクの調子が悪く申し訳ありませんでした。」
司会の女性はサラリと言うが、一度もマイクがオフになることはない。
それが余計に可笑しかった。
「結局よく分からないまま終わったよ。」
「まあいいんじゃない。笑いも交えてリラックスできたよ。」
そして席を立ち、ブースを見ると、各社ともに準備万端といったところで、衝立にはポスターや資料が貼られ、ノートパソコンが置いてある。
タレントの等身大パネルが置いてあるブースもある。
まるで何かのイベントのように華やかだ。
パンフレットをチェックする英治に対し、未佳はブースを見回している。
「ねえ英治くん、まずは直感で回ってみようよ。」
まるで夜店を見るような未佳に、一旦パンフレットを閉じた英治だった。




