転職しますか。
転職を考える。
それは今に始まったことではない。
一ヶ月に二日しか休めなかった時、それだけ働いても給料は変わらなかった時、通勤費が赤字だと気が付いた時、主任の給料が比較にならないくらい高いと知った時、何度辞めようと思ったかなんて数えるだけ無駄である。
それでも具体的に何がしたいというわけではない。
だから未佳の悩みを聞いた時、自分と重なって見えていた。
「勘違いしないで欲しいのは、今が嫌だというわけじゃないことなんだ。」
以前の英治は、今日世界が滅びたとしても構わないと思っていた。
朝起きて、ああまた今日がやってきた、そう憂鬱に思っていた。
けれど未佳と出会ってからは、明日が待ち遠しく感じていた。
「未佳にはすごく感謝している。と同時に未来を考えたくなったんだ。」
『結婚』という言葉はあえて使わない。でもそうなってもいいかと思っている。
だとすれば、このままでは駄目なのではないか。そう強く思いはじめていた。
「私は席外そうかな。」
陽子は苦笑いをして立ち上がったが、英治がそれを制止した。
「いてください、迷惑でなければ。」
「いや迷惑じゃないけど、二人きりの方がいいかなって。」
英治は一拍おいて話し始めた。
「いてください。その方が冷静に話せると思いますし、僕の考えが甘いなら甘いと言ってもらいたいし。」
陽子は仕方ないと頷き、三人分のコーヒーを用意した。
未佳はその間に何か話そうと、あれこれ考えてはみるが、何一つまとまらない。
「ごめんね、未佳の相談だったのに。」
「いや、いいけど・・・その英治くんも悩んでいたんだね。気付かなかったよ。」
二人とも気づくはずがない。二人でいる時は、楽しさや嬉しさで溢れていたから悩むこともないのだから。
「方向性くらいは考えてるの。」
カップを置きながら陽子は英治に尋ねた。
「まだ何も。それで今週末に市内企業の合同就職説明会があるから参加してみようかと。」
陽子は英治と未佳を交互に見た。
「市内企業ね、若いわりには小さくまとまってるなあ。」
英治は未佳と離れたくはない。転職するにしても近場限定で考えている。
そのことが陽子には小さく感じたようだ。
「そういうわけじゃないけど、とりあえず行動してないと不安だからさ。」
と、取り繕ってみたけれど、未佳の顔を見たら、取り繕う必要がなかったと後悔する英治だった。
「とにかく、会社って外から見てもよく分からないのは、ここに入ってよくわかったから。ここに残るにしても、もっともっと世間を知った上で、ここを選びたいから。」
選ぶだなんて生意気な、そう思ったものの、少し羨ましい陽子だった。
「まあまだ若いからね。諦めることはいつだってできるもんね。」
陽子にとって、この会社にいることは諦めのようである。
「私は英治くんと同じ会社がいいんだけど。」
未佳が少しふくれっ面で言う。
『その時は結婚しよう』と言わずに飲み込み、「俺もそうだよ。」と微笑む英治だった。
その時、陽子がポンと手を打った。
「その説明会ってやつに二人でいけばいいんじゃないの。」




