進路相談(その3)
「これが今年きた求人だ。」
先生は青く分厚いファイルを机の上にドンと置いた。
「全部で250社あるぞ。」
少し自慢気だが、未佳には250という数字がすごいのか分からない。
たしか全校生徒が500人なので、二人に1社くらいはあるということか。
そう考えると、余計にすごいのかどうか分からなくなった。
「これが求人一覧だ。」
A3の紙を広げると、社名と募集人数が並んでいる。
聞いたことのある会社もあるけれど、全然知らない会社の方が多い。
警備会社もいくつかある。ウチの会社は無いみたいだけれど。
「職種は考えているのかい。」
そう言われて初めて職種を意識した。
「いえ、まだ考えていません。」
「そうか、じゃあ事務系と販売系だとどっちかな。」
どうして事務と販売の二択なんだろう。
「あれ。」
先生は未佳の顔をまじまじと見る。
「君、ピアスしてるね。カラーコンタクトも入れてるみたいだし。まあ定時制の子に校則違反だなんていう気はさらさらないんだけど、事務系を受けるのは無理だね。」
受けたいなんて一言も言ってないのに無理だなんて。未佳は露骨に顔をしかめた。
「今は売手市場だなんて言われてるけど、企業はやっぱり良い人が欲しいっていうのは変わらないからね。」
では、未佳は良い人ではないのか。
未佳の顔をもう見ていないのか、それともわざとやっているのか、先生は構わず話を続けている。
「販売でも有名なところ多いからね。アパレルだったら服装は関係ないし、合ってるかもしれない。」
未佳はアパレルにまったく興味がない。母親から心配されるほどに。
一体誰の相談だろう、一方的に硬にはめて話すだけなんて。
「先生は今までどんなところで働いたことがありますか。」
「ん、先生は学校以外で働いたことはないな。学生時代は勉強ばかりしてたからアルバイトもしなかったよ。」
なぜか少し自慢気だ。
「でもな、企業の人事の人とよく話をするから、入社する為のテクニックはバッチリだぞ。」
未佳はもうどうでもよくなっていた。
ぺこりとお辞儀をすると、席を立って部屋を出た。
「これが私の考えです。以上です。」
まだ面接の練習をしていたんだ。
面接のその先がどうなるかも分からないのに。
未佳が知りたいのは会社に入る方法ではない。その先のことなのだ。
先生にとって、送り出すことがゴールであっても、本人にとってはスタートでしかないというのに。
高校に行ったその先は、大学に行ったとしてその先は、専門学校に行ったとしてその先は・・・。
その先は自分で見つけるものなのだろう。
でも見つからないならどうすればいい。
みんなは見つかっているのだろうか。
「ありがとうございました。失礼します。」
未佳は意識してゆっくりとドアを閉めた。そうしないと力任せに閉めそうだったから。
未佳はスマートフォンを握りしめた。
英治に会いたい、英治と話がしたい。
きっと今は仕事中だろう。仕事中でないにしても、今は英治に会ってはいけない気がしている。
自分で考える。それが必要なことなのだろう。
でも会いたい。
ただ会いたい。
スマートフォンをじっと見つめる。
すると英治からメールが入った。
『大丈夫?』
大丈夫じゃない。
『会いたい。』




