進路相談(その2)
今日は仕事は休みである。
学校は定時制だから夕方からだ。
英治と連絡を取りたいが、仕事の邪魔をしては悪い。
もとより、話すことが何か分からない。
未佳はスマートフォンを手に取って、何気なく検索をかけてみる。
ー仕事さがし
たくさんのサイトがヒットした。
かえって戸惑うほどだった。
取り敢えずハローワークのインターネットサービスを見てみる。
何千件もの求人が並んでいる。
すごいけど、かえって混乱してしまう。
税理士補助、これは無理だ。しかも想像以上に安い。
医療事務、これも無理だ。
工場勤務、これはどうだろう。フォークリフトの資格がいる。これも無理だ。
大型トラック運転手の募集が結構多い。給料はいいけれど、普通自動車免許もないから当然無理だ。
営業部長の募集もある。入っていきなり部長だなんて、そんなことがあるもんだ。
製缶工って何だろう。左官とか鳶って聞いたことがあるけど具体的に何をする仕事だろう。
そもそも、これは女性向けなのか男性向けなのかが分からない。
キーワードに女性と入れてみたら、該当はなし。
未佳は男女雇用機会均等法など知りもしない。男女別の募集はできないのだ。
すっかり見る気を失った。
部屋の中央で仰向けになり、読みかけの漫画雑誌を手に取った。
パラパラと適当に読み進める。
内容が頭に入ってこない。
そのうちに雑誌を持つ手に力が入らなくなり、そのまま寝入ってしまっていた。
そして気が付くともうお昼過ぎになっていた。
それでもまだお昼過ぎか、といったところだが。
そういえば学校に進路指導室がある。
そこで相談してみよう。
未佳は少し早いが、学校へ行くことにした。
校内ではまだ授業が行われていた。
一応は同じ学校であるが、全日制の生徒を見ると引け目を感じてしまう。
制服も着てみたかった。今だからこそ、そう思う。
進路指導室は、校舎に入ってすぐである。
未佳は場所こそ知っていたが、実際に入るのは初めてである。
コンコンコン、ドアをノックすると、「どうぞ。」と聞こえてきた。
「失礼します。」
中に入ると衝立があり、その手前に英治と同じ年代の男性が立っていた。
進路指導の教諭である。
年上の男性と接することが多いけれど、先生のようにスーツ姿だと、違った意味で緊張してしまう。
「君は定時制コースだね。どうしたんだい。」
「はい、今日は進路について相談があり、来ました。」
進路指導室だから進路相談は当たり前である。
するとその時、衝立の向こうから男の大きな声が響き渡った。
「はい、三年間無遅刻無欠席です。以上です。」
未佳は立ちすくんだ。それを見た先生は優しく微笑んでいる。
「ごめんね。今、面接の練習してるから。」
面接の練習、まるで野球部の練習みたいに声を出している。
「それじゃあ、尊敬する人物を教えてくれるかな。」
「はい、その質問は学校の指導によりお答えできません。以上です。」
未佳は面食らった。どこに答えられない要素があったのか。
「読書が趣味とあるけど、普段どんな本を読むのかな。」
「はい、その質問は学校の指導によりお答えできません。以上です。」
ありえない、おかしな面接となっている。
「あの、今のどこに答えちゃいけない部分があったんですか。」
先生は笑っている。
「ああ、どちらも違反質問だからね。度胸つける為にわざとやってるんだけど。まあ、信条の自由ってやつかな。誰を尊敬しようが、どんな本を読もうが、本人の自由だし、本人の資質や能力に関係ないからね。」
そうなんだ。未佳はよく分かっていないが、分かるつもりもない。
「他にも、家族のことや詳しい住所、短所を聞くことだって違反質問なんだよ。」
今の会社に入る時、散々聞かれた覚えがある。
むしろこれだけ違反質問があると、一体どんなことを聞かれるのか逆に分からなった。
「卒業まで半年もあるのに、今から面接の練習なんですか。」
「ん、ああ君は高卒求人のことを知らないんだね。9月から高校新卒採用が解禁されて、ほとんどが9月に決まってしまうんだよ。」
解禁って、狩猟か何かみたいだ。あまり良い印象は受けない。
「君は働いてるのかい。」
「はい、警備会社で働いています。でも、このままでいいのか考えるよう親に言われたんです。」
「そういうことなら今がちょうどいい時期だね。奥の部屋で待ってて。資料を持ってくるから。」
先生は、衝立の横にあるドアを指差した。相談室と書いてある。さらに奥があるようだ。
未佳はドアを開けて部屋に入る。
長机とパイプイスがあるだけの簡単な部屋だ。
腰掛けて待つ未佳の耳には『以上です』が繰り返されていた。




