表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/72

英治のお仕事

 英治は仕事嫌いだが、仕事熱心である。

 人手が足りない時は、現場に入る事もよくある。

 今日は道路工事の為、2名で通行規制を行う、いわゆる片側交互通行だ。

 左手に持った誘導灯を垂直に上げて、左右に軽く振り、運転者に合図を送る。

 車が減速したら誘導灯を水平にして、停車させる。

 停車を確認したら、運転者に一礼して、右手を上げて合図を送る。

 合図を見たパートナーは対向車を通行させる。

 ただそれの繰り返しである。

 しかし状況によっては、色々と判断しなければならない。

 英治は現場に到着したら、まずシミュレーションを行う。

 今回は、比較的小さな路地で、車の往来も少ない。けれど近くに信号のある交差点があり、歩道が無い為、注意が必要な場所であった。

 それぞれの立ち位置を考える。

 交差点側と反対側のどちらに自分が立つべきか。

工事区間が短い為、お互いの状況が見える為、どちらでもなんとかなりそうだ。

現場監督と簡単に打ち合わせをする。

作業員がコーンを並べだしたので、車の誘導を開始した。

 ところが、今日一緒にする相手がまだ来ていない。

 今日の相手は、地場の工場を定年退職した河野さんだ。

 年配者なので道に迷っているのだろうか。

 英治の心配をよそに、河野さんが遠くからゆったりと歩いてきている。

「おはようございます。」

 河野さんが挨拶しても、周りの人達は作業を開始しているので、挨拶どころか見向きもしない。

 すこし不機嫌そうになる河野さんに英治は駆け寄った。

「遅いじゃないですか。もう作業開始してますよ。嘘でもいいから急いできました感を出してください。」

 河野さんは、一層不機嫌になってしまった。

「とりあえず向こうに立ってください。一通です。歩道がないので歩行者が来たら両方止めますよ。」

「ああ、わかった。」

 河野さんは交差点側に、英治はその逆側に立つことにした。

 幸い、通勤時間帯も過ぎた為、車の通りはまばらだった。

 だが、そのまばらな車ですら河野さんは見逃して、合図なしに車が通行することがしばしばあった。

 また、英治が車を止めていると、河野さんがしきりに合図を送ってきて、車を行かせるよう促した。

 しかし英治は河野さんの後ろにある交差点の信号を指差した。

 信号は赤である。今、英治が車を行かせたならば、赤信号で詰まってしまうだろう。

 青信号になってから、改めて車を通そうとすると、河野さんが車を停めずに通行させていた。

 仕方なく英治は運転者に頭を下げて、もうしばらく待ってもらうことにした。

 待たされた運転者は、文句こそ言わなかったが、英治を睨みつけるように走り去った。

 クレームにならなかっただけでも一安心だ。

 その時、一台の車を見逃し、合図なしで河野さんの方へ送ってしまった。

 河野さんの方は車が来ていなかった為、何事もなかったのだが、河野さんが険しい表情で英治の元に駆け寄ってきた。

「なにやってんだよアンタ。一歩間違えば大事故だぞ。いつもは事務所だからって、現場をなめてるんじゃないか。」

 これには英治も眉を吊り上げた。

「すみませんでした。ですが、河野さんはもう十三回も僕の合図を見逃しています。今も持ち場を離れています。さあ早く戻ってください。」

 河野さんは押し黙って、しぶしぶ元の位置に戻った。

 英治は姿勢を正し、これ見よがしに機敏で明確な合図を送るようにした。

 その後は河野さんも合図を見逃すことはなかった。


「おつかれ、おい英治、河野さんと何かあったのか。」

 事務所に戻るなり、主任が英治に話しかけてきた。

「いつもどおり、異常ありませんよ。」

「そうか、それならいいけど。河野さん、何か怒ってたみたいだからさ。」

「そうですか。どうしたんでしょうね。」

「お前って、現場監督さんからは評判良いんだけど、一緒にやった人からは評判悪いんだよな。」

「そうですか。どうしてでしょうね。」

 何食わぬ顔で残務処理をする英治であった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ