釣りに行こう(前編)
雲一つない青い空、海と空がまるでひとつづきに見える。
英治と未佳は海に来ていた。
海岸線沿いに巨大な風力発電用の風車が十基立ち並び、並行して赤レンガ調の遊歩道が続いている。
下から見上げる風車は、どんな建物より壮観で、羽根のひとつをとっても、プールと同じくらいの長さがある。それが三枚も回っているのだ。迫力を超えて恐怖にも思えてくる。
「映像で見るとそうでもないんだけど、実物みると圧巻だな。」
未佳はスマホを取り出して、「自撮しよう。」と英治にくっつく。
「もっとくっつかないと入んないよ。」
二人の距離は縮まって、頬が触れ合いそうになる。
未佳の呼吸が感じられ、英治は思わず息を止めた。
「撮れた撮れた。」
未佳は画像をチェックする。
十基の風車が一列に並んで映り込んでいる。映画のワンシーンを切り出したかのようだ。
「英治くん、歌ってみてよ。動画撮ったらPVになるよ。」
「いやいやムチャぶりだよ。歌えないし。PVぽいのは確かだけど。」
さて、今回二人が海に来たのは、ある目的があるからだ。
それは、釣りである。
遊歩道の柵の向こうは海である。
未佳の父親から教えてもらった釣りスポットなのだ。
未佳は父親から借りた釣り竿を構える。だが、ずいぶん短く、未佳の背丈もない。
「伸ばさなきゃダメだよ。」
英治はスルスルと釣り竿を雄伸ばしてあげた。
竿は二メートル以上ある磯竿だ。弾力性に優れ、魚との駆け引きを楽しめる玄人好みの竿といえる。
一方で、英治が用意したのは投げ竿だ。全体的に硬くできているが、上手くしならせることで遠くまで投げることができる。
「どうしたらいいの。」
「まかせて。」
英治は未佳の竿に手際よく仕掛けをつける。
釣り針がたくさん並び、先端には小さなカゴがついている。
サビキという仕掛けである。
「このカゴに餌を入れるんだ。」
そう言って、袋入りの練り餌をスプーンでカゴに詰め込む。
「うわ、生臭い。」
「この臭いで魚は寄ってくるんだから。」
「そうなんだ。よし、いくよ。」
未佳は竿を振り回した。仕掛けが英治の服に引っかかる。
「わ、ちょっと待って。」
英治は未佳が竿を振る方へ体を動かす。
それを見て未佳はさらに竿を振った。
「コラコラコラ、わざとやるんじゃない。」
英治は必死だが、未佳はケラケラ笑っている。
仕掛けを外すと、未佳から竿を取り上げた。
「いい、周りを確認して、肩より上に竿を振り上げたら、前に向かって押し出す感じで。」
そう言いながら英治は投げて見せた。
仕掛けは大きく弧を描いて、ポチャンと波間に着水した。
「それから、リールは投げる時に指を掛けて・・・。」
「わかったから私にも投げさせて。」
未佳はさえぎるように言い、竿を持つ英治の手にしがみついた。
「わわ、わかったから。回収するからちょっと待って。」
英治はリールを巻いてみるが、ぐぐっと引っ張られているようで上手く巻けない。
「もしかして釣れたの、大物。」
「まあ大物と言えば大物だね。」
「ええ、すごいすごい。」
「すごくないよ。釣れたのは地球だから。」
いわゆる根がかり、海底に針が引っかかっただけだった。
「ウキつけるの忘れてた。」




