どこが好きですか。
「私のどこが好き。」
それは禁断のセリフかもしれない。
「突然どうしたの。」
英治にとっては突然のことだった。
「だって・・・私って、背は低いし、スタイルだってよくないし、美人でもないし、仕事だってイマイチだし。何が良くて付き合ってるんだろうって。」
未佳は少し涙ぐんだ。自分の言葉で改めて傷ついてしまっていた。
「それ全部が好きだっていったら怒るかな。」
英治は膝を折って屈むと、目線を未佳と同じにした。
「一緒にいると安心するし、自分が出せる。無視せず気にせず付き合えるんだよ。」
考えることなく答えた英治に、未佳は照れくさそうに笑った。
「美人だからとか、スタイルがいいからとか、そんな表面的なことよりも、心が好きになったと言うか、一緒にいたいから、とかじゃダメかな。」
未佳は軽くうなづいた。
「ありがとう。」
具体的じゃないけれど、気持ちは繋がっているんだ。そう思えただけで十分だった。
「あと見てないのってあったかな。」
未佳はプログラムを見るふりをして目線をそらした。
まっすぐに私を見てくれる、その気持ちだけで十分だから。
「あとは会社紹介ブースかな。」
「あ、社内に入っていいやつだね。行こうよ。」
照れ隠しだけじゃなく、本当にこの会社に興味を持っていた。
二人は社屋の玄関に移動したが、ステージが邪魔で入れない。
「裏手から入れるみたいだね。」
そう言って裏手に回ると、ブースへの案内看板を持った男性が立っていた。
先程、受付で英治からアンラッキーだと言われた男性だ。
彼は英治の姿を見るなりそっぽを向いた。
だが、英治は気にしていないのか、普通に話しかけている。
「こっちから入れるんですか。」
「え、ええ、そうです。そこの従業員通用口から入ってください。中に案内する人がいらっしゃいますので・・・お願いします。」
だいぶ日本語がおかしい。
「あっちだってさ。」
やはり全く気にしない英治。
「しかし、あの案内役は大丈夫かな。挙動不審だよ。」
「英治くんって背が高いからイアツしてるように思われるんだよ。」
「え、俺って威圧的だった。」
「人によっては怖いって思うかな。」
「そうなんだ、知らなかった。」
とたんに表情が暗くなる。
「俺って、不器用で、めんどくさくて、子供っぽくて、いいとこなんてないんじゃないか。」
「そこが好きなところって言ったら怒るかな。」
未佳はいたずらっぽく笑った。
英治は顔をそむけてしまった。
すると案内役の彼とばっちり目が合った。
二人はばつが悪いようで、お互いに苦笑いをした。
通用口から中に入ると、英治と変わらないくらいの若い女性に案内されて、ひとつの部屋に通された。
おそらく普段は会議室として使われているのだろう。床はパネルカーペットで、歩き疲れた足にはちょうどいい。
壁に掛けられた十数枚のパネルが、この会社の事業内容を物語っている。
女性がひとつひとつ丁寧に説明する。
創業者が海外で買い付けた雑貨を日本で売り出したのが始まりで、今では海外拠点を置いて、輸入だけでなく生産まで行っている。
船会社や保険事業、資源開発まで幅広く手掛けている。
うちとは会社の規模が違いすぎる。
職業に貴賤はないとは言うけれど、ここまで規模が違ってしまうと、劣等感を抱かずにはいられない英治であった。
外にいる案内役の彼も、挙動不審などとバカにはできない。
「なんかすごいけど、ここにいる人達は何してるんだろうね。」
未佳は率直に言葉にした。
ここにいる人達は、物を作っているわけでも運んでいるわけでもない。
もっと難しい仕事なのかもしれない。
けれど何してるのか分からない。
「ありがとう。」
未佳の言葉で、英治の劣等感は和らいでいた。
未佳は何のありがとうだか分からない。
でも英治の晴れやかな顔で、未佳も嬉しくなっていた。




