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子供みたいですか。

「あ、えっとそれは・・・ラッキー賞です。」

 受付にて福引の半券を出そうとした英治に、まだ幼さが残る中世的な男性が声を掛ける。

 きっと今年の新入社員なのだろう。おぼつかない様子が挙動不審にも思える。

「下二桁が13だとラッキー賞なんですよ。」

 無反応な英治に対し、大事なことなので二度言いました。

「ペットボトル飲料を一本プレゼントします。お好きなものを選んでください。」

 受付の長テーブルに、500mlペットボトルが並んでいる。

「良かったね、どれにする。」

 未佳が英治の顔をのぞきこむと、英治はすこぶる険しい表情を浮かべていた。

「どこがラッキーなんだ。スーパーで60円で売ってるやつだし。これで福引の楽しみがなくなった。とんだアンラッキーだ。」

 未佳は絶句した。時折、子供っぽいところがあるとは思っていたが、福引にこれほど執着していたとは。

「そんなに福引が好きなんだ。」

 未佳のトーンは少し低めだ。

「超豪華賞品が当たるって思ってしまったから。当たるかもってドキドキ感が良かったのに。で、どれが飲みたい。」

「それじゃあ、お茶で。」

 未佳はお茶のペットボトルを手に取った。冷えてない。良かった、コーラとか取らなくて。

 それにしても、この間の餅まきといい、今回の福引といい、子供っぽいけど優しいな。そう思う未佳であった。

 ステージでは若手社員による歌やダンスが披露されている。

 未佳はちょっとだけ興味があったけれど、英治が興味なさげだったので、遠巻きに見ることにした。

 新入社員の出し物として、ミニスカート姿でアイドルの曲を踊っていた。

 英治が少し興味ありげにみていたことが、未佳には面白くなかった。

「英治くんはアイドルに興味があるの。」

 少し尖った口調で言った。

「え、いや、こんなのさせられるなんて大変だなと思って。」

「そうなんだ、てっきり女の子に興味があるかと思ったけど。」

 やっぱり口調にトゲがある。しかし英治はキョトンとした顔で言う。

「え、だってあれみんな男だよ。」

 未佳は驚いた。確かによく見ると違和感がある。

 でも遠巻きだからよくわからない。

「英治くんって、むちゃくちゃ目が良いんじゃない。」

「ああ、両目2.0だけど。」

 コンタクトの未佳にとって羨ましい話である。

「射的がある、やってみよう。」

 見ると縁日でよくある、射的そのままを再現している。

「銃も本物の射的の銃だ。」

 射的の銃が偽物なんだけど。

 見るとレンタル会社のシールが貼ってある。

 探すと、テントもテーブルも、そのほとんどがレンタル品である。

 イベント専門のレンタル会社があることを初めて知った英治であった。

「うちの会社もお祭りやればいいのにね。」

「うちの会社はケチだからね。」

「ケチだよね。」「うんケチだ、ケチ。」

 ケチ話に花が咲く。

 ケチというだけではなくて、会社の悪口ならいつまでも続きそうな英治だった。

 

 それからマイナーな歌手のミニコンサートがあったり、ビンゴ大会があったりもした。

 案の定、ビンゴ大会でやたらとワクワクしていた英治だったが、やたらとヒットするのに場所が悪く、リーチがかかることもなく終了という残念な結果に終わってしまった。

 がっくりとうなだれる英治に対し、未佳は英治の一喜一憂する表情で、なんだか満たされる気持ちになっていた。

 地元の女子大生チアリーディング部の演技もあった。

 英治が少し神妙な顔で見ているので、未佳は少しイラっとしていた。

「なんか不思議だな。俺からしたら大学生って年下なんだけど、未佳からしたら年上なんだな。」

「そうだけど、それが不思議と思う感覚が不思議なんだけど。」

「いや、年の差ってあまり感じてないんだけど、こんな時に歳の差を感じるなって。」

「そう言えば、最近は年の差って気にしてなかったなぁ。」

 変に子供っぽかったり、変に大人だったりで、年齢を忘れていた。

 それは個性であって年齢とは関係のないところかもしれない。

 未佳には、このところ感じる不安があった。

 英治は私のどこが好きなんだろう。

 それが具体的に感じられない。だからこそ嫉妬してしまったりするのだろう。

「英治くんって、私のどこが好きなの。」

 困らせる質問とは分かっていた。でも聞かずにはいられなかった。

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