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夏祭り

 今日は上棟式で知り合った物産会社の夏祭りである。

 社屋は5階建てのコンクリート造り、駐車場は広く、まるでグラウンドだ。

 その駐車場に天幕が立ち並び、所狭しと露店が並ぶ。

「なんだか思っていたよりも盛大ですね。」

 祭の規模は露店の数と来場者数で決まると言える。

 その点では、企業内の祭でありながら、地域の祭りも兼ねているようだ。

「浴衣でくればよかったなぁ。」

 未佳は少し後悔していた。

 もっと規模が小さくて、浴衣では浮いてしまうと思っていた。

 実際には浴衣姿はチラホラと見受けられる。

 何よりも、社員さんだと思われる人達の大半が浴衣姿であった。

 さらに言えば、浴衣姿を見せたいのは英治に対してである。

 花火大会の時に見せているのだが、太陽の下でも見てもらいたかったのである。

 英治も未佳の格好をみて、すこし残念そうにしていた。

 はっきりとは分からないが、少なくとも未佳にはそう見えた。

 実際には、英治は未佳がスカートではないことに残念がっていたのだったが。

「ワタ飴に金魚すくいにポップコーン、射的もあるし、かなり本格的な祭だね。」

 英治の認識も祭と言えば露店がメインと考えているようだ。

「金魚すくいしましょう。」

「ダメダメ、今すくったら持ってまわらないといけないだろう。」

「じゃあカラアゲ食べようよ。」

「そうじゃなくて、まず招待してくれた事務員さんのとこに行かなくちゃ。」

 未佳と英治はあたりを見渡して、事務員さんを探したが、英治は顔を覚えていない。

 未佳が頼りなのだが、未佳は露店が気になって仕方がないようだ。

「あ、いたいた。」

 そう言って指差したのは焼きトウモロコシの露店だった。

 その前に立っているのは上棟式でお世話になった美人さんだ。

 長身に淡い空色の浴衣が映える。

 英治がその全身をなめるように見ていたのを未佳は見逃さなかった。

 未佳は奥歯を少しだけ噛みしめていた。

 ただその感情が、どちらに向いているのかは自分でもはっきりしていない。

「本日はお招きいただきありがとうございました。」

 英治と未佳は深々と頭を下げる。

 美人さんは慌てて頭を上げるよう身振り手振りで促した。

「そんな頭下げたりしないで、はい、トウモロコシあげるから。」

 未佳はまだ熱々のトウモロコシを二本受け取った。

 たっぷり塗られたしょうゆが香ばしい。

「ありがとうございます。」

「どういたしまして。まあ、簡単な社内行事だけど楽しんでね。」

 車内行事というには本格的すぎるだろう。

 英治は自社との差を目の当たりにして、理不尽だと思い始めていた。

 理不尽なのは今に始まったことではないのだけど。

「他も見て回ろう。」

 未佳は英治の手を引っ張った。

 招待されて、トウモロコシをもらって、申し訳ないのだけれども、未佳はこれ以上ここにいる気にはなれない。

 ドンドンドン

 祭の開始を告げる花火が鳴った。

 社屋玄関に簡易的なステージが設置されていて、浴衣を来た男女がマイクを持って立っている。この二人が司会者なのだろう。

「さあ始まりました、夏祭り。今回は記念すべき第三十回です。」

 車内行事としては長い。三十年もやっているのか。

「記念大会としまして、福引大会に豪華賞品をご用意しました。禿頭はなんと七十型テレビです。」

 開場からどよめきが起こる。

 欲しいかどうかは二の次として、高価な品であることは明白である。

「当たった方は、この会場から自力で持って帰ってもらいますよ。」

 開場に笑いが起こる。英治の顔は笑っていない。

「英治君、どうしたの。なんか顔がけわしいよ。」

「七十型テレビ、絶対ほしい。」

 英治は事前にもらっていた夏祭りのプログラムを取り出した。

 一ページ目の隅が応募券になっている。

「受付に応募券を出そう。」

 未佳は苦笑いで英治についていった。

「英治君のスイッチって分からないなぁ。」

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