ありがとう。
袋に入ったモチやお菓子が満載のカゴを手にして、骨組みだけのビルの二階にハッピ姿の年配男性が立っている。
見上げるのは大勢の来客者たち。
モチ撒きが始まるのを今か今かと待っている。
未佳は少し遅れてきた為、人だかりの後方に立っていた。
突然花火が打ちあがった。
それを合図にモチが空を舞う。
人々は両手をいっぱいにあげてモチを手にしようとする。
しかしモチは想像以上に速度を上げて迫ってくる。
半数の人が手をおろし、前かがみにモチを避けていた。
手をあげたままの人も、直接受け取れたのはごく一部の人だけだった。
大半は地面に落ちて、前かがみになった人たちが群がる格好になった。
後で見ていた未佳は、少し恐怖を感じてしまい、モチを拾いに行けなかった。
手前にコロコロと転がってきても、サッと誰かに取られてしまう。
「みんなガチだぁ。」
その中でも一際目立っていたのが、みなの頭上で次々とキャッチしていた長身の男性だった。
少し離れたところでも、長い腕を伸ばし叩き落している。
「ガチの中のガチだ。」
そう思っていたが、お菓子を横にいた男の子に手渡している。
優しいな、でも惜しい、渡しているのが柿の種で、全然子供が喜んでない。
「前に背の高い人がいるから全然とれない。」
見ず知らずのおばさんから嫌味言われてる。
すかさずこれでもかと頭下げて、言ったおばさんが困惑してるし。
本当に残念イケメンなんだな。
それでも未佳は嬉しくなった。
その残念イケメンはもちろん英治である。
初めは仕事のできるすごい人と思っていた。
でも本当に不器用で、面倒で、上から目線かと思えば、変なとこでへりくだって・・・。
だから惹かれてしまうのだろう。
だから安心するのだろう。
「あれ、未佳もいたんだ。はい、お餅あげる。」
そう言って差し出したモチはひとつだけ。
もっと取っただろうに。
「ありがとう。」
一緒にいてくれてありがとう。




