上棟式が始まった。
三発の花火が上棟式の始まりを告げた。
紅白幕に包まれた、骨組みだけの会議場予定地にパイプ椅子が並べられている。
埋まっているのは7割程度と思われるが、それでも百名余りが集まっているようだ。
正面には簡易的な演台が設けられ、大型パネルに色鮮やかな完成予定図が描かれている。
予想図ではなく予定図というのがミソだろう。
相変わらず建物の表通りまで変えられているのだけれど。
「始まったんですね。」
未佳達がいる天幕からは会場が全く見えない。
花火の時点で未佳は少々興奮していた。
だがすぐに冷めることになる。
聞こえてくるのは支店長挨拶、来賓挨拶、関係先挨拶、施工元挨拶・・・。
夜間学校に通う未佳にとって、久しぶりに聞いた校長先生のお話以上に退屈なものでしかなかった。
「挨拶なんだから『こんにちは』で終わっていいんじゃないですか。」
「それいいわね。お偉いさんが並んで、小学校の卒業式みたいに一言ずつ発表するなんてのもどうかな。」
「いい、それ採用です。」
来客もまばらとなり、未佳たちはくつろいでいた。
「上棟式ってお祭りみたいなんですか。私初めてなんです。」
「そうなんだ、私が小さい頃は家が建つとモチ撒きしてたから行ってたな。まあ、こんな式典になってるのは、ウチの会社がイベント好きだからだけどね。」
家が建つとモチが撒かれる。
住宅の建築工事には何度か立ち会ったが、そんなことは一度もなかった。
前の道路を通行止めにして、クレーン車で既成の壁や柱をどーん、それが未佳の『家が建つ』というイメージだ。
「そうそう、今度会社で夏祭りやるから遊びにおいで。彼氏なんか連れてきちゃってさあ。」
未佳は彼氏の話などしていない。
いないと思われるより良いことなのだろうが。
「ウチの会社ってジジイばかりだからイベント多くても楽しくないのよね。未佳ちゃんところはどうなの。車の誘導してる人なんて背が高くてイケメンじゃない。」
それが私の彼氏ですよ、そう心の中でつぶやいて、思わず顔がにやけてしまう。
会場から聞こえてくる音も気に掛けなくなった頃、トランペットの音が鳴り響いた。
それを引き金に様々な楽器の音色が響き渡る。
「あ、演奏始まったんだ。」
地元の吹奏楽部だというが、その演奏は時に軽快で、時に雄大で、時に力強く響き渡っている。
骨組みだけの建物は、その音色を反響させるのか、複雑な音色も醸し出していた。
「やっぱり屋外で練習してるだけあるわね。」
年配女性が感心している。
未佳がそのわけを聞くと、屋外練習の方が音量が大きくなり、響きが違ってくるそうだ。
どうやら女性は経験者らしくて、専門的なことを語りだしたが、未佳にはどうでもいいことだった。
思いは単純である。
音楽が胸の奥まで響いてくる。
耳だけじゃない、全身で音楽を受け止めている。
間近で彼女たちの顔を見ながら聴きたかった。
それでも伝わってくるのは、彼女たちの頑張った証拠である。
演奏が終わると、また退屈な挨拶に戻っていた。
そして式典の締めくくりに、万歳三唱が聞こえてきた。
万歳なんて運動会の時だけと思っていた。
大人がやるなんて驚きだ。
未佳はふと、昔見せられた戦争映画の出征シーンを思い出していた。
「あとはモチ撒きだから行っておいで。」
「そうそう、ここはもういいから。」
何度もお辞儀をしながら、未佳はモチ撒きの場所に移動した。




