三角関係が心配ですか。
「ジョートー式ってなんですか。」
未佳も雅人も同じ答えだった。
棟上げや餅撒きと呼び方を変えてみても分からないようだ。
これは知識というよりもジェネレーションギャップなんだと英治は痛感した。
一方で主任は雅人に「ググれ。」と吐き捨てるように言っている。
主任は日常において事務の陽子から「ググれ。」と言われている為、誰かに言う機会を見計らっているのだった。
主任のしたり顔が鬱陶しい。
「会場は近所だから三人で歩いていってくれ。」
雅人が何やら文句を言っているようだが、英治と未佳は我関せずで事務所を出た。
ガードレールのついた細い歩道を二人並んで歩いている。
ガードレールには無数のキズがついていて、事故の多さを物語っている。
念のためにと英治は車道側を歩くことにした。
「そういえば、この辺りを歩くのは初めてだ。」
「え、そうなの。私はいつも駅から歩いてるよ。」
車の免許をとってからは、意識しないと歩く行為自体が減ってしまう。
学生時代は当たり前だったのに。
「じゃあそこを曲がったところにパン屋さんがあるのも知らないとか。」
「それは知ってる。車で通るからな。」
「あ、バカにしてますね。」
「馬鹿にはしてない。」
そう言って、笑顔で未佳の顔を見た。
未佳は照れ臭そうに微笑み返した。
これで『買い食いしてるな』と思ったなんて言わずに済んだ英治だった。
ふと後ろを見ると、10メートルほど離れて雅人が歩いている。
見るからに不機嫌そうである。
好きな人が目の前で彼氏と楽しそうにしていたら、誰でも面白くないものだ。
逆に英治は優越感を感じずにはいられない。
また、自分がこと恋愛に関してそのような感情を抱くなどと思ってもみなかった為、心境の変化に小さく驚いているのだった。
「どうして後ろをきにしてるんですか。」
「いや、雅人がちゃんとついてきてるかなって。」
未佳は振り向いて雅人を視認した。
「ついてきてますよ。っていうか雅人君のことすっかり忘れてたぁ。」
俄然機嫌が良くなる英治である。
かれこれ20分は歩いただろうか。
建設中のビルが見えてきた。
まだ朝とはいえ、真夏の日差しはすでに痛い。
散歩気分も払拭されて、三人は汗まみれになっていた。
「やっと着いたぁ。」
「歩く距離じゃなかったな。」
「車で送ってくれればよかったんすよ。」
入口にある天幕にハッピを来た中年男性がいる。
ハッピの下はスーツなので、見るからに暑苦しい。
しかし着ている中年男性の前頭部は涼やかである。
ハッピには『大売出し』と書いてあり、「何が」とツッコミたくなること必至だ。
「おはようございます。」
「おはようございます。おお、本当に要望通り若い人達ですね。暑いですけど宜しくお願いします。」
英治は中年男性と簡単な打ち合わせに入った。
「もうクタクタだね。」
「そうだね。」
雅人は未佳に話しかけるが、会話が全く続かない。
未佳は打ち合わせをしている英治の姿を熱心に見ているからだ。
未佳にとっては尊敬できる働く男の姿といったところだろうか。
雅人にとっては汗だくのオッサン二人が話している興味の湧かない光景だが。
実のところ、雅人は今日を楽しみにしていた。
未佳と一緒だからだ。
しかし今は、未佳と英治の間に入る隙がないことを思い知らされ、帰りたくなっていた。




