夏休みってヒマですか。
「明日の配置はどこですか。」
「明日はお休みです。」
「またですか、せっかく夏休みに稼ごうと思ったのに。」
電話の向こうで不機嫌そうな未佳を思い浮かべると、申し訳ない英治であった。
その一方で、ふくれっ面を直接見たいとも思っていた。
しかし未佳の不満ももっともである。
今週は2回しか仕事がなかった。
夏休みになると未佳だけでなく、他の学生アルバイトもフルで出勤が可能である。
それなのに仕事量はそれほどでもない。
さらに言えば、未佳のように車で移動できない人は、近場の配置しかできない。
おのずと仕事量も減ってしまうのである。
だからといって英治の仕事が減るわけではない。
未佳と会える時間も確保できなくなっている。
未佳だけでなく、英治の不満も募る一方であった。
「おい英治、物産ビルがあさって上棟式やるんだって。」
主任が英治に笑顔で近づいてきた。
この笑顔は、いい話のときなのか悪い話のときなのか、英治は必要以上に警戒した。
「上棟式って何ですか。」
「なんだ、お前でも知らないことがあったのか。」
主任はやけに嬉しそうである。
それだけ英治が知らないというのは珍しいことである。
というよりは、知らないことには口をはさまないから、知らないことを知られてないという方が正しいのかもしれない。
「建物がけっこうできたときに、屋根からモチ撒いたりするアレだよ。」
「ああ棟上げですね。」
主任のザックリ説明では、本当に知らない人には伝わらないだろう。
現在建設中の大手物産ビルの上棟式で、誘導員2名が必要とのこと。
それで英治が指名されたわけである。
「そんなに難しい仕事なんですか。」
「いや簡単だ・・・お前って結構自信家だな。」
「どうしてですか。」
「だって、自分が指名されるってことは、他の人じゃダメだって自覚してるだろう。」
英治は無言で、肯定も否定もしなかった。
「まあいいや。要するに、お客の要望はマスコミも来るから、見た目の良い奴にしてくれ。まちがっても年寄をよこすなってさ。」
それで英治とは光栄なことだろうが、何だか素直に喜べない。
「で、もう一人は雅人にするから。」
雅人は20歳の大学生である。
未佳のことが好きだから、英治としてはやや複雑な心境だ。
「それから案内係として若い女の子がいるそうだから、未佳ちゃん連れていけ。」
未佳と一緒の現場である。
本来ならば嬉しい限りだ。
しかし雅人も一緒とは。
「完全に仕組んだ配置じゃないですか。」
「なんのことやら。最近退屈してただろう。いい息抜きになるってもんだ。」
けっして退屈はしていない。
不満解消のガス抜きというならその通りではある。
しかし裏を感じる配置だ。
それがお客さんの要望通りでもあるところがなんとも腹立たしい。
「ほら、未佳ちゃんに連絡しろ。用事入れられたら困るだろ。」
英治は未佳に電話した。
未佳は弾む声で了承した。
英治の感じる不安など、微塵も感じさせなかった。
その声で、未佳に会いたくなってしまった。
明後日会える、それだけで胸がいっぱいになっていた。
電話を切った瞬間から、また声が聞きたくなっていた。
夜にまた電話しよう。




