これってホントに必要ですか。
ビルの解体現場にあるプレハブの事務所。
未佳がその入口ドアに手を掛ける。
ノブをガチャガチャと回して、施錠を確認するはずだった。
しかしドアは当たり前のように開いてしまった。
ピピピピピピ・・・・・
防犯アラームが鳴りだした。
未佳は慌てて後退りする。
「大変です。どうしましょう。」
英治は平然と携帯電話を取り出した。
「管制ですか、Yの37が施錠されていなかったようで、発報させてしまいました。とりあえずアラームを解除願います。」
するとアラームは静かになった。
英治は何やら『管制』と会話しているようだが、未佳には全く状況が掴めなかった。
何度か声に出して笑うこともあり、未佳は会話の中身が気になって仕方がない。
会話を終えた英治にすかさず未佳は近づいた。
「なんだって。」
「ん、ああ、なんでもないよ。鍵を掛け直してここは終わり。」
未佳は露骨にムッとした。
「なんでもないことないでしょう。それとも私には言えないことでもありましたか。」
未佳の予想外の反応に、英治は戸惑った。
好きな女優の話をしたときもそうだが、英治が思っている以上に未佳は英治の言葉に敏感だ。
付き合ったばかりの男女とは、そういうものなのかもしれない。
いわゆる腹の探り合いか、あるいは単純な独占欲か。
好きな人のことは何でも知りたい。
今の未佳にはそれがピッタリだろう。
「ごめん、そういう訳じゃないけど。」
英治は一度、言葉を整理した。
といっても状況はこうである。
昨晩、防犯アラームが鳴った為、夜勤の警備員が急行した。
異常を確認したが、問題なしとしてその場は終わった。
しかし施錠を忘れて防犯アラームだけをセットした為、今回のような状況になってしまった。
という訳である。
「それって、夜の人のミスじゃない。」
「そうだよ。だから会社のミスでもあるから、何もなかったようにしないといけないんだよ。」
「隠ぺいですね。」
「隠蔽ですよ。」
二人は顔を見合わせて笑った。
「でも防犯アラームが鳴ったんでしょう。『問題なし』でいいの。」
「ああそれはね、どこからかイタチが迷い込んでいたんだって。なんでも追い出すのに30分かかったそうだよ。」
「それで笑ってたんですね。」
「そういうこと。お客さんには報告書を提出するけどね。イタチであってもちゃんと対応してますって。」
「今日の件は・・・。」
「ログ消去して隠蔽だね。」
「隠ぺい工作ですね。」
ところでひとつ未佳には気になることがあった。
今回は単純な施錠忘れだったけれど、そうじゃない場合はどうなっていたんだろう。
「その時は、お客さんに連絡して、立ち入ってないか確認するよ。防犯アラームのログも調べるし、防犯カメラもチェックする。機械警備がバッチリだから、何の問題もないんだよ。」
「それって・・・、機械に任せていれば、パトロールなんかしなくてもいいんじゃないですか。」
「そうだね。でも、こうして警備員が出入りしていると抑止力になるんだよ。」
「ヨクシリョクってなんですか。」
「ええと、まあ防犯アラームって犯罪が起きたときに役に立つわけだけど、パトロールは犯罪そのものを止めておこうと思わせるってことだよ。」
「なるほどです。」
未佳はうんうんと首を軽く縦にふり、納得した様子であった。
英治はそんな未佳を見て、ひそかに自身も納得していたのであった。
ーこんなパトロールなんか無意味で、ただお客さんから金をせびっているだけだと思っていた。考えてみると意味があるんだ。適当に、もっともらしく答えたら、まさかこんなにも良回答になるなんてね。
これって本当に必要なんですよ。




