お昼休みは必ず終わり、またお仕事に戻ります。
「どうですか、アボカドコーラのお味は。」
未佳は好奇の目で英治を見ている。
英治は一口飲むと、無表情でペットボトルを未佳に差し出した。
「俺には表現力が欠落していて上手く言えない。これはおそらく、味覚に対するアンチテーゼだな。」
よくわからない。
未佳は取り敢えずコーラを受け取り、口に含んでみた。
口の中に広がる青臭さ、強炭酸が鼻につき、そのくせ脂っこい。
ようするに・・・
「まっずい。なにこれ、よく平気な顔して飲んだよね。」
「そうしないと飲まなかったろ。」
「だましたなぁ。」
急いでペットボトルを開け、お茶を飲む未佳。
「俺にもくれ。」
未佳のお茶を口にする英治。
そして気が付いた。
「あ、これって間接キスになるんじゃ・・・。」
ああ、でも前にコーラを回し飲みしたことがあった。
でもあの時はカップだったし、今回はペットボトルだからモロだし。
未佳も恥ずかしそうにうつむいている。
「どうしてそんなこと言うんですか。スルーでいいじゃないですか。」
「ごめん、変に意識しちゃったね。」
「そうじゃなくって、私もその気付いたんですけど、こんなまずいコーラでだなんてイヤすぎなんです。もういっそのことキスしちゃいましょう。」
真っ赤な顔で迫ってくる未佳。
たじろぐ英治。
だが顔が少しにやけている。
「キスしたいけど、ここでしたら傷に塩を塗るようなものだよ。」
未佳の動きが止まった。
すべての感情が通り過ぎたような、やけに落ち着いた顔をしている。
「シラケた。傷に塩とか言うんだもん。」
英治はがっかりした。
次の機会はあるのだろうか。
未佳は激辛ポテトチップスを袋ごと英治に差し出した。
「はい、あげる。予想以上の激辛だった。」
英治は恐る恐るポテトチップスを口にした。
だが、思ったほどの辛さではない。
「そんなに辛くないよ。」
「そう、私ってば辛いのダメなんだよね。」
「じゃあ買うなよ。」
「買ったのは英治君だよ。」
「カゴに入れたのはオマエだろうが。」
未佳はほころぶような顔をしている。
英治はまあいいかと思った。
「じゃあ次にいくよ。」
「え、もう行くの。」
なんだかんだで一時間近く休憩している。
昼休みは終わりなのだ。
二人は車に乗り込んだ。
「次は造成地の現場事務所だよ。」
「はぁい。」
着いてみると、赤土がむき出しの空き地が広がっているだけだった。
その空き地の手前に小さなプレハブが二棟あり、油圧ショベルがデンと腰を据えていた。
英治はプレハブの入口をガチャガチャと動かし、鍵が掛かっていることを確認した。
「鍵OK、ショベルOKっと。」
英治は手板に挟んだパトロール日誌に日付と時間を書き込んだ。
「ショベルOKってなに。」
「ん、ここにあるショベルが盗まれてないかどうか。」
未佳は改めて油圧ショベルを見上げた。
その大きさはプレハブ小屋よりも大きい。
これを盗むとしたら、かなり大がかりなことだろう。
「こんな大きいの盗むなんて無理だよ。」
「ところが無理じゃないんだよ。クレーンやトレーラーを用意して盗んでしまうんだ。」
「そんな大掛かりで盗んだって、儲からないでしょう。」
「とんでもない。ショベル1台2000万円はするからね。」
「2000万、どうしてそんな高価なモノを置きっぱにしてるんですか。」
「まあ、トレーラーで運ぶとなると往復5万くらいかかるからね。」
未佳には2000万のモノを5万で置きっぱなしにしておく感覚が分からない。
「でも鍵がないと動かないとかですよね。」
「そうだけど、メーカーが同じなら鍵は共通だぞ。」
「鍵が共通って、どんだけ緩いんですか。」
「ほら、一つの鍵持ってるだけで、ブルドーザーもショベルも乗れて便利だろ。」
そんな緩い2000万っていったい・・・。
このパトロールの緩さも何となく理解できた未佳であった。




