一緒に昼食ですか。
「とりあえずラーメン屋でも行くかな。」
「却下ですね。」
未佳は歯切れの良い返答で返した。
「じゃあ食べたいモノを言ってよ。」
「デート気分が味わえるところかな。」
英治は絶句した。
それもそのはず、なにせ二人は作業着姿なのだから。
「ドレスコードってわけじゃないけど、この恰好だとオッサン御用達のところになるぜ。」
未佳はちょっとムッとしたが、仕方ないと肩を落とした。
「まあ、ファーストフードくらいなら許容範囲だけど。」
「それはダメ、女の子がいるところは私が寂しくなるからイヤ。」
だとすれば、『デート気分が味わえる』なんて無理な注文である。
まったく、と思いながらも未佳を見ると考えてしまう英治であった。
「とりあえずコンビニだな。」
英治は最寄りのコンビニエンスストアに入ると、オニギリの陳列棚に向かった。
そして三つほど手に取ると、未佳がそっと買い物カゴを差し出した。
「ありがとう。気が利くね。」
「どういたしまして。あ、私はコンブ嫌いだからね。」
英治は昆布のオニギリを二つ持っていた。
一つだけ返そうとしたが、結局二つとも棚に戻した。
「じゃあ選んでよ。」
シャケと梅干、オカカをカゴに入れ、英治は未佳からカゴを受け取った。
未佳はタラコとツナ、焼き肉のオニギリをカゴに入れる。
「なんか邪道っぽい。」
ボソッとつぶやく。
「なんか年寄っぽい。」
ハッキリとつぶやく。
次は飲み物だ。
未佳は当たり前のように緑茶のペットボトルを手にした。
だが、英治の手に握られていたもの、それは・・・
「期間限定のアボカドコーラだって。」
「ゼッタイにゲテじゃん。なんでそんなチャレンジャーなの。」
「新製品とか期間限定とかって欲しくなるもんだろ。」
「オニギリに合わないでしょ。私のお茶はあげないからね。」
『私のお茶』も含めオニギリも、この後レジ前にて未佳が手にした期間限定激辛ポテトチップスも、お会計は英治であった。
車に乗り込んだ二人が向かった先、それは工場地帯の一角にある小さな港だった。
港というには小さな岸壁で、船も係留されていない。
沖には大きなテトラポットが立ち並び、幾つかの小島も見える。
時折吹き付ける風は、磯の香を運んできて、ここに海があることを実感させてくれた。
「夏の海なのに誰もいないんだ。」
「まあ、工場地帯だし、泳いだりできないからね。」
誰もいない夏の海、それだけでデート気分にしてくれる。
目の前を過ぎる鋼船も、未佳には物珍しいものだった。
英治はオニギリを食べながら、ご飯粒を海に撒いた。
すると水面が青く光り、すぐに海底へと消えた。
「今のナニ、魚、魚なの。なんか青かったよ。熱帯魚とか。」
予想以上の反応に、英治はクスクスと笑った。
「熱帯魚じゃないよ、メジナの子供だよ。」
未佳はメジナが分からない。
だからその子供と言われても分かるわけがない。
『英治くんって物知りだね。』などと言おうものなら、『常識だよ。』なんて返されるかもしれない。
めんどくさい。
青いお魚だな。
という認識で十分だった。
それよりも、自分もやってみたかった。
未佳はツナのオニギリをほぐすと、パラパラと海に撒いてみた。
すると無数の青い小魚が集まってきた。
五センチくらいだろうか。
さっきよりもハッキリと見える。
未佳はもう一度撒いてみた。
同じように小魚が集まってくる。
そしてその中に、フラフラと泳ぐフグの赤ちゃんもいた。
「フグだ。」
フグは小さな胸鰭を盛んに動かしている。
まるで玩具のヘリコプターのようだ。
「かわいい。家で飼いたい。」
はしゃぐ未佳に英治は淡々と言う。
「海水魚を飼うのは難しいんだぞ。俺も昔、海で採ったハゼを飼ったんだけどな。」
「死んじゃったの。」
「いや、環境が良かったのか、太りすぎたんで、海に帰ってもらったよ。」
「うわ、なんかヒドイ話だコレ。」




