花火大会の警備してました(42話の裏話)
「これってライトセーバーみたいでカッコイイですね。」
志郎はライトセーバーならぬ誘導灯を振りながら言った。
志郎は、先日英治が面接して入れた20歳の華奢な男の子である。
20歳の男性に男の子という言い回しはおかしいのだが、志郎は男の子という表現がピッタリくるのであった。
「ボタンを押すと点灯、点滅、消灯と変わるからね。日が暮れたら必ず点灯すること。予備の乾電池も持ってるね。」
英治は志郎に事細かに教え込む。
「誘導するときは、誘導灯を腰より下で振ること。上から振ると急かしているみたいだからね。さらに、左手を進行方向に水平に向けると丁寧に見えるからね。」
そう言って実演してみせる。
そんなに難しい事ではない。
でも立ちっ放しの振りっ放しでは疲れてしまう。
「人の流れが決まっているから、ここは特に問題ないとは思うけど、何かあったら連絡してください。」
「はい、了解しました。」
英治は大きなバッグを手に、志郎を残して移動する。
次はかなり年配の男性の元だ。
「お疲れ様です。今日は暑いですけど水分補給できていますか。」
「ああ、お疲れ様です。はい、なんとか生きていますよ。」
シャレにならないことを言う。
英治は男性の服装を見て気が付いた。
蛍光ベストを着ていない。
「ベストはどうしましたか。」
男性は首をひねる。
「ああチョッキです。蛍光チョッキ。」
「チョッキですか、すみません。家に忘れてきてしまいました。」
英治は笑顔でバッグから蛍光チョッキを取り出した。
「今はいいですが、夜はつけていないと危ないですからね。」
忘れ物など想定済みだ。
こうしてバッグに装備品を入れて全員をチェックする。
蛍光ベストだけでなく、モールという肩にかけている紐や手袋、帽子まで用意している。
用意した分で足りなければ、自分が着けている装備品を渡していく。
さながら幸せの王子様である。
まあいつものことなのだが。
「こことおれないんですかぁ。」
軽自動車の窓から若い女性が声を掛けてきた。
「ここは通行禁止なんですよ。駅の裏に臨時駐車場がありますので、そちらをご利用ください。」
女性はしぶしぶ移動した。
コーンにトラロープで通行禁止の措置は万全だ。
半端に侵入されると、立ち退かせるのに苦労する。
「すみません、あそこのくじ引きのお店って、アタリが入ってないみたいなんですよ。絶対おかしいですよ。」
祭りの露店に公正さを求めること自体が間違っていないか。
英治は言葉をぐっと飲み込む。
「すみません、露店については各店の責任で開いていますので何も言えません。ただ、祭りの主催者には報告しておきます。ご指摘ありがとうございました。」
英治は未佳にメールを送った。
だが一向に返信がない。
まだ怒っているのだろうか。
未佳の父親からの情報で、ここに来ていることだけは分かっている。
配置した警備員全員のチェックは終わった。
あとは花火が始まるのを待つだけだ。
英治は逸る気持ちを抑えつつ、祭りのチェックをする振りをして未佳を探した。
どうしていないんだ。
メールをするか。
だが怒っているならば逆効果だ。
見えないから怖い。
分からないから怖い。
そして未佳を見つけた。
大勢の人波の中なのに、まるでクローズアップされたかのように未佳の姿が飛び込んできた。
それから後は、前々話のとおりである。
英治にとっても忘れられない花火大会となっていた。




