仕方がないと思えるのが大人ですか。
「花火大会いっしょに行けないってどういうことですか。」
未佳は今までに見せたことのない剣幕で英治に詰め寄った。
「いや、仕事が入ってて・・・まあその。」
「断れない仕事なんですか。」
未佳は丁寧に話そうと意識しているようだが、語気は強くなっている。
「断れないというほど重要な訳ではないけれど、俺がやらないといけないというか。」
「もういいです。聞きたくありません。」
丁寧な言葉づかいで詰め寄られると、反論できなくなる。
さらに言えば、感情を押し殺しているようで、余計に冷たく感じてしまう。
もっとも反論できる材料など、ありはしないのだけれど。
花火大会当日がきた。
未佳は昼を過ぎても部屋で漫画を読んでいる。
「あら未佳、今日の花火大会は英治君と行くんじゃなかったの。」
未佳の母親が部屋に入ってきた。
「仕事で行けないって。ひどくない。」
母親は優しく笑った。
「確かにひどいわね。でも大人になると仕方のないこともあるのよ。」
「じゃあお母さんだったら仕方ないで済ませるの。」
「済ませないわね。許さない。」
母親は即答した。
未佳も同調するように頷く。
「でも、英治君とケンカしたいわけじゃないんでしょ。」
未佳は無言で頷いた。
「だったら仕方ないで済ませないとね。男って子供っぽいところがあるから女が大人にならないとね。」
「でも英治君の方が年上で大人だよ。」
「それでもよ。」
未佳は口を尖らせていた。
母親からすると、未佳と英治の関係性が分かる好機だと思えた。
現状では未佳の方が気持ちが強いかもしれない。
英治はまだ仕事を優先するぐらいだから。
もっとも仕事をほっとくような奴は、将来性に不安がある。
親として、社会人としてみれば英治が正しいのだろうが。
「今年は親子3人水入らずで行くわよ。今年が最後になるかもしれないんだから。」
「去年もそう言った。」
「今年こそ最後になるわよ、来年は4人だから。」
「ついてくるんだ・・・。」
未佳は少しだけ気が晴れた。
そして少しだけ仕方ないと思えるようになった。
それでも何か仕返ししたい。
未佳は英治にメールを送った。
―今日は花火大会ですね。私は素敵な年上の男性と楽しんできます。せいぜいお仕事頑張ってください。
嘘はついていない。
『素敵な』という部分は怪しいが・・・。
するとすぐに返信がきた。
―男ってだれだ、俺の知っている人か。
未佳は少しホッとした。
英治も嫉妬するのだ。
でも安心させるわけにはいかない。
未佳は返信しないことにした。
すると英治から着信があった。
英治の声が聞きたい。
でも負けた気がするから取らなかった。
壁に掛けてある金魚柄の浴衣。
本当は今すぐにでも会いたいのに。




