採用面接って疲れますか。その2
「失礼します。面接に参りました。」
小柄な若い男性が入ってきた。
まだ新しい紺のスーツに身を包んでいる。
どこか不安そうで、落ち着かない表情だ。
「お待ちしてました。こちらへどうぞ。」
陽子が男性を応接室へ案内する。
男性が座る前に英治が声を掛けた。
「履歴書をよろしいでしょうか。面接の際に書き込みますのでコピーを取らせていただきます。」
男性は持っていた鞄から履歴書を取り出し、英治に手渡した。
「それでは、お掛けになってお待ちください。」
英治はコピーをしながら、思わず顔がほころんでいた。
「当たりみたいだな。逃すなよ。」
主任が声を掛ける。
英治は履歴書の本紙を机の上に置き、コピーをクリップボードに挟むと、男性の対面に座った。
「改めまして、今回面接を担当します英治と申します。」
「ああえっと、志郎です。宜しくお願いします。」
「それでは、まず簡単に自己紹介からお願いします。」
志郎は現在20歳で、高校卒業後に県外の自動車部品メーカーに勤務していたが、親元を離れての生活と慣れない工場勤務で体調を崩し退職に至った経緯がある。
とにかく地元で働きたい。
それが志望動機だった。
「ぼくは体力に自信がないのですが、大丈夫でしょうか。」
英治は満面の笑みで答える。
「大丈夫ですよ。うちは60歳過ぎの人たちもたくさんいます。いくら体力に自信がなくても、60歳過ぎた人たちには負けないでしょう。」
「そうですね。そう言われると大丈夫な気がします。」
「気だけじゃダメですよ。大丈夫です。」
「はい、大丈夫です。」
志郎の表情は、入ってきた時とは違い、安心した色を見せていた。
英治は採用後のスケジュールから服のサイズなど、細かな聞き取りに入った。
応接室の外がなにやら騒がしい。
次の人が来たのだろうか。
陽子の笑い声が聞こえる。
気になってしまう英治であったが、今は面接に集中である。
「それでは、これからも宜しくお願いします。」
「こちらこそ宜しくお願いします。」
二人は深々と頭を下げた。
そして応接室を出ると、そこにいたのは若旦那であった。
「ありがとうございました。」
志郎を見送ると、若旦那のほうから英治に近づいてきた。
「おつかれ、どうやら当たりの子だったみたいだね。」
「そうですね。で、今日はどうしたのですか。」
「いや、近くを通ったから寄っただけだよ。最近雨ばかりで暇なんでね。」
この若旦那は大手建設会社の御曹司であり、子会社の支店長をしている。
本当に若旦那なのだ。
加えてイケメンであるという、英治の劣等感をかきたてる存在である。
「そうだ、今度ゴルフコンペがあるけど陽子さんどうかな。」
「いつ。」
「日曜日だよ。」
「考えとくね。」
若旦那は陽子のことが気になるようだ。
主任は陽子の方が年上なので、それは有り得ないという。
男は若い女が好き、というのが主任の持論であるからだ。
そんなことはないと思うが、未佳のことがあるので今の英治には否定できない。
しかし若旦那の陽子を見る目は明らかに違って見える。
機会があれば聞いてみたい。
若旦那に対して劣等感しかなかった英治が、こと恋愛に関して若旦那に興味を持った時であった。
読んでくださり、ありがとうございました。
次回更新は10日の12時です。次回も宜しくお願いします。




