夜が明けて
未佳は普段よりも遅く起きた。
朝食の為に部屋を出ると、そこには帰り支度を済ませた英治が立っていた。
「ちょうど良かった。ご両親にも挨拶をしておこうと思ったから。」
英治は未佳の両親に深々と頭を下げた。
「仕事がありますので、一足先に失礼致します。昨日はありがとうございました。それから・・・。」
英治は少し照れくさそうに微笑んだ。
「これからも未佳さんと仲良くしていきますので、宜しくお願いします。」
両親も慌てて頭を下げた。
そして英治が立ち去るのを見送ってから父親が未佳に言った。
「どうやら俺のファインプレーがあったようだな。」
「なになに、昨日わたしがいないうちに何があったの。」
「何にもないよぉ。」
母親はじっと未佳の目を見つめた。
そして何も言わずに微笑んだ。
「なに、言いたいことがあるなら言ってよぉ。」
「いいんじゃない、いいんじゃない。」
「なに、なんで二回も言うの。」
「大事なことだからよ。」
実のところ両親は、未佳が警備員として働くことを反対していた。
『もっと女の子らしいところにしなさい』
でもそれが未佳にとっては苦痛だった。
『女の子らしい』子たちの集まりから一度はぐれてしまった未佳。
もう一度そこに入るには並大抵の勇気では足りない。
だからこそ定時制高校であり、だからこそ警備員だった。
職業に貴賤はない。
当然のことであるが建前である。
けれど未佳が踏み出せた。それだけで今は良しとしよう。
夫婦でそう話し合っていた。
「英治君なら信用できる。」
「あら、あなたも一緒に温泉入っただけで単純なのね。」
「なにぃ、お前はどうなんだ。」
「わたしは誰かさんと違って背が高いから、それだけでもうOKよ。」
「なにぃ、背が低くて悪かったな。」
「大学も出てるって。」
「俺はバカだから大学出てないわけじゃないぞ。昔は出なくて普通だったんだ。お前だって出てないのに言うんじゃない。」
「わたしは女だもん。」
「都合のいい時だけ女になりやがって。」
未佳は呆れ顔で二人を見ていた。
なんだかんだで仲が良いものだ。
だから結婚したのだろうし、だから私が生まれたのだろう。
そう思うと嬉しくなった。
「朝ごはん食べに行こうよ。おなかすいたよぉ。」
その後、昼前に会社に戻った英治はというと・・・
「おつかれさま、お土産はなんだ。」
主任が無意味に爽やかな笑顔で近付いてきた。
「こんな標語を知っていますか。『お土産は 無事故でいいのよ おとうさん』って。」
英治も懇親の笑顔で応えた。
「いや、おまえは俺のお父さんでも何でもないし。」
「私も主任みたいに父親より老けた息子はいりません。」
「おいおい、冗談はさておき、お土産はないのかよ。」
「あるとすればこれですか。」
英治は宿に持って行ったカバンをゴソゴソと探った。
そして一枚の紙を取り出し、主任の机にそっと置く。
「おい、これ領収書じゃないか。」
「当然経費で落ちるんでしょう。」
そう、それは宿の領収書であった。
「なんでビジネスホテルにしなかった。」
「急でここしか空いてなかったんです。」
「俺じゃ何にも言えない。2階にいって直接部長と交渉してこい。」
英治はふたつ返事で2階にあがった。
しかし部長は交渉の余地なく却下した。
英治には予想通りだった。
おそらくビジネスホテルに泊まっていても却下されただろう。
同じ自腹なら良い宿に泊まった方がいい。
その読みが、思わぬ効果を生んだことはいうまでもない。
上機嫌で降りてきた英治に主任は言った。
「まさか経費で落ちたのか。」
「落ちる訳ないでしょう。元より計算通りですよ。」
読んでいただき、ありがとうございました。
次回更新は9日の12時予定です。次回も宜しくお願いします。




