男同士の会話ですか。
「よし、温泉に行こう。」
食事を終えた4人は、一旦部屋に戻ると着替えを持って温泉に移動した。
「すみません、家族旅行なのにお邪魔しちゃって。」
英治は申し訳なさそうに頭を下げる。
むしろ邪魔したのは私たちの方だよと、未佳は小さくうつむいた。
これから温泉に入る、ということは英治は未佳の父親と入ることになるわけである。
正式にお付き合いする前から家族ぐるみの付き合いになるなんて。
ある意味、願ったり叶ったりではあるけれど。
「それじゃあ1時間後ということでいいわね。」
そういうと、母親は確認も取らず女湯に入っていった。
慌てて未佳も後を追う。
「1時間って長いんじゃないか。」
父親はぼやいている。
「そうですね。女性は長風呂が好きですよね。」
合わせるように英治も言う。
「お前、そのうち疲れるぞ。もっと肩の力を抜け。」
父親はそういうと、さっさと男湯に入っていった。
ここの温泉は単純アルカリ泉で、源泉かけ流しの湯である。
檜の浴槽が3つあり、露天風呂も2つある。
ややぬるめのお湯が、疲れを解きほぐしてくれる。
英治は風呂で足が伸ばせることに喜びを感じていた。
天井を見上げると、湯気で霞んでよく見えない。
それがまるで別世界のようで、全身の力が抜けてしまう。
「温泉っていいですね。癒されます。」
「なんだ若者が年寄くさいこと言って。」
「年寄ですか・・・。出来れば年寄になってしまいたいですね。」
「変わったこと言うな。なんでだ。」
「今の私って年齢的には大人なんでしょうけれど、大人でも子供でもないって感じがして中途半端なんですよ。もう子供には戻れませんから、いっそ大人も大人になってしまいたいなって思います。」
父親はしばらく黙り込んだ。
未佳が言っていた『公務員になりたがっていた』というのを思い出していた。
十分に大人の対応ができる奴だとは思ったが、それまでに苦い経験があるからこそなんだろう。
「お前って生きるの下手くそだろう。」
「生きるのに下手とか上手とかあるんですか。」
「あるんだよ。考えなくてもいいことを考えてしまう奴とか、自分が損しても他人を助けてしまう奴とか。」
「それが下手な生き方ですか。」
「そうだ。だいたいお前さんみたいな若者は、まだまだ可能性にあふれているんだ。自分で限界を決め込んでんじゃあない。」
「決め込んでいるつもりはないのですが、世の中って上手くはいかないものだなとは思います。」
「だから面白いって思える奴になればいいじゃないか。それが上手く生きるコツってやつだよ。」
英治は言葉を噛みしめてみた。
それでも自分は上手くは生きれないだろう。
「まあ、娘の幸せを考えると上手く生きている奴がいいんだろうけど、俺の本心としては不器用な奴の方が信用はできるがな。」
何だかその一言で救われた気がした英治だった。
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次回更新は8日の12時予定です。次回も宜しくお願いします。




