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両親に紹介しますか。

「あら、風情があって良い宿じゃないの。」

 木造平屋で、鎧張りの外壁が、昔ながらの温泉宿を思わせる。

 黄昏時も相まって、一層風情を醸し出していた。

「いらっしゃいませ。」

 和装の中年女性が出迎える。

 広い玄関で、靴を脱いでスリッパに履き替える。

 未佳たちはチェックインの手続きを済ませ、部屋に入った。

 部屋は8畳の和室と洋間の2間続きで、和室にはすでに布団が敷いてあった。

 ベッドに慣れた人達には、和室に布団はノスタルジックな気持ちにさせてくれるだろう。

 しかし未佳達にとっては普段と変わらない為、ベッドのあるホテルの方が非日常を感じられたのではないだろうか。

「荷物置いたら食堂に行きましょ。」

 未佳の母親は一通り部屋を見回すと、座り込んでいる二人を促した。

 二人は渋い顔をしたが、お腹がすいたのも事実であり、それもそうだと腰を上げた。

 食堂は畳の大広間で、食台が並んでいる。

 3人は座布団を手に、どこに座ろうかと見回した。

 宿泊客は少ないようで、未佳達以外には数組しか見当たらない。

 もっとも食事時間をずらしている可能性も否定できないのだが。

 だからすぐに分かってしまった。

 一人で座っている英治の存在が。

「会社の人いるの。」

「あそこに座っている人だよ。」

「そう。」

 母親は当たり前のように英治に近づくと、その向かいに座布団を敷き座り込んだ。

「前を失礼しますね。」

 英治は驚いてあたりを見回した。

 こんなに席が空いているのに、目の前に座られたら当然の反応である。

「ごめんね英治くん、驚いたでしょう。」

 未佳は英治だけに聞こえるよう小声で話し、英治の隣に座り込んだ。

「未佳ちゃん、あぐらはダメよ。」

 未佳は母親の言葉を受けて座り直した。

 遅れて父親が母親の横に座る。

「あの、お疲れ様です。紹介します、こちらが私の両親です。お母さん、お父さん、こちらが会社の方で、リーダーをされている英治さんです。」

「いつもお世話になっております。」

「いえいえ、こちらこそ。」

 英治は状況が掴めていない。

 未佳もまさかこんな風に両親を紹介することになるなんて思ってもいなかった。

「英治さんは今日お仕事か何かですか。」

「そうなんですよ。出張仕事で穴が空きまして、急遽私が穴埋めをしたんです。」

「それはそれはご苦労様です。」

「そちらは家族旅行ですか。」

「ええ、そうなんですよ。急な話ですが、格安で温泉宿に泊まれる機会を得たものですから。」

 英治と両親の会話は続いている。

 当たり障りなく話す英治を見て、大人だなと感じる未佳だった。

「ところでウチの未佳とはどういった関係ですか。」

 切り出したのは意外にも父親からだった。

 『ウチの未佳』という言い方に、牽制が込められているようだ。

「仕事仲間というのが第一で、仲良くさせてもらっています。お付き合いしている訳ではありませんけれど。」

「わざわざ言うってことは、ウチの未佳と付き合いたいってことだな。」

「ちょっと、お父さん、やめてよ。」

「素敵なお嬢さんですから、誰しもがそう思うんじゃないですか。」

 英治の大人な対応に、父親はちょっとイラついていた。

 その時、4人の前に料理が運ばれてきた。

 取り敢えず嫌な空気は変えられる。

 未佳は胸をなでおろした。

 運ばれてきたのは、近海で採れる海の幸を中心とした料理だった。

「この刺身、新鮮で美味しいですね。」

「確かに旨いが、釣りたての魚はもっと旨いぞ。」

「お父さんは釣りをされるんですか。」

「ああ、磯釣りだけどな。」

「いいですね。私はバス釣りをするんですが、最近は肩身が狭くて、海釣りに変えようと思ってたんですよ。」

「そうか、今度一緒に行くか。」

「いいですね。」

 そして釣りの話で盛り上がる英治と父親だった。

「誠実そうな良い人じゃないの。」

 母親からそう言われて、自分が褒められたように嬉しくなる未佳だった。

ありがとうございました。


次回更新は6月7日(火)21:00の予定です。次回も宜しくお願いします。

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