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未佳の非日常

 西日が未佳の顔に当たり、未佳はゆっくり目を開けた。

「ヤバっ、寝てた。今何時だ。」

 手元の携帯電話を見ると、すでに16時を回っていた。

 今から学校の準備して間に合うのか、いやそれより父親はどうしたのだろう。

 未佳は頭が整理できずにいた。

「お、未佳はまだいるな。父さんすっかり忘れてたよ。」

 部屋から父親が出てきた。

 父親は冬眠明けの熊のように、のそりと未佳に近づいてくる。

「温泉に行こうか。」

 父親の唐突な提案に目が点になってしまった。

「もうすぐ母さんも帰ってくるころだし、皆で温泉に行こうじゃないか。」

 父親の提案はこうだ。

 会社の同僚が勤続20年を迎えて、記念に会社から旅行費用が出るとのこと。

 しかし本人は独身の為、旅行に行く相手がいない。

 そこで未佳の父親にその権利を売ろうというわけだ。

 会社からは10万円分の費用が出るそうで、同僚からは半額の5万円で譲り受けたという。

「こんなチャンス滅多にないだろう。」

「でも何で今日なの。」

「思い立ったが吉日ってやつだよ。」

 全然答えになっていない。

 これ以上深く話しても無駄だろう。

 するとその時、玄関の扉が開き、母親が帰ってきた。

「おかえりなさい。」

「ただいま、あら、未佳はまだいたの。学校に遅れるわよ。」

 父親があぐらを組んだまま手招きしている。

 母親はあまり良い気はしなかったが、しぶしぶ近づいた。

「今から温泉に行かないか。」

「え、今から。」

 父親は一から状況を説明した。

 まさかと思っていたが、母親は完全に乗り気になってしまっている。

「それじゃあ用意しなくちゃね。」

「よし、今から泊まれる温泉宿を探すとするか。」

 今から探すのか。

 もう夕方だぞ。

 見つかるものなのか。

 未佳の思いもよそに、宿はあっさりと見つかった。

 平日であれば珍しくもないだろう。

「夕食も用意できるってよ。さあ、準備していくぞ。」

「夕食って、今から行って間に合うの。」

「高速走れば2時間で着く。今からなら7時には着くぞ。」

 なんとも丁度良い時間だ。

 学校にはお休みの連絡をしておこう。

 会社にも連絡しなければ・・・。

「明日なんですけど、お休みさせてください。」

「いいよ、どうせ明日も雨だろうから。」

 電話の相手は主任だった。

 英治の声が聞きたかったのに。

「それでは失礼します。」

 主任と話すことなどない。

 未佳は素気なく電話を切った。

 英治は仕事中にメールをしてくるタイプではない。

 仕事に限らずマメなタイプではないのだが。

 それでも送ったメールには返信してくれる。

 でもこちらから送ってばかりでは負けた気がしてしまう。

 勝ち負けなんて関係ないというのに。

「よし行こう。」

 3人は古めかしい軽自動車に乗り込んだ。

 父親は、もう10年も乗っている。

 元は黄色い車体だったが、今はクリーム色になっている。

 英治の車が新しく感じたほどだ。

 未佳は後部座席に乗り込んだ。

 そして靴を脱ぎ、横になった。

「おい、高速走るんだぞ。シートベルトを着けとけよ。」

「はいはい。」

 未佳はシートベルトを引き出して、腰に回して、やっぱり体を横たえた。

 雨脚は弱まる気配がない。

 窓を流れる雨粒を眺めていると、英治とのドライブを思い出していた。

「会いたいな・・・。」

「何か言ったか。」

「ううん、何でもない。」

 車内には、両親がお気に入りのベテランロックバンドの楽曲が流れていた。

 未佳はあまり好きではないが、今は考えるのを止めて、音楽に耳を傾けていた。 

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