表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/72

水族館にて(前編)

今日は土曜日ということもあり、チケット売り場は少しだけ混雑していた。

警備員らしき中年男性が列を作るように促していたが、きれいに列はできていなかった。

「ちゃんとカラーコーンを置いて、誰もが分かるように誘導しないとダメだね。」

英治は一人つぶやいていた。

「職業病ですね。」

未佳にはしっかりと聞こえていたようで、英治は気恥ずかしくなってしまった。

「大人2枚でお願いします。」

「あ、私は高校生ですよ。」

「そうだった。すみません、大人1枚と高校生1枚で。」

英治は5千円札を差し出した。

おつりは千五百円だった。

「あの、お昼をおごるって話ですけど、なしでもいいですよ。」

未佳は申し訳なさそうにしている。

ここまでくるのに高速代金で千円、駐車場代で千円、入場料で3千5百円使っている。

お昼までとなると1万円近くのお金を使わせることになってしまう。

しかし英治は聞いていなかった。

なにより『高校生1枚』という言葉に衝撃を受けていた。

相手は一応十八歳だが未成年には変わりない。

ましてや現役女子高生ともなると、自分が悪いことをしているように思えてきた。

「さっきのチケット売り場のお姉さん、美人でしたね。」

英治は顔が浮かばなかった。

「そうだったの。まったく見てないや。」

「英治さんって女の人に興味ないんですか。」

さらっと難しい質問だ。

『ある』も『ない』も引かれてしまうのではないか。

英治の心は決まらないまま、適当に答えることにした。

「興味がないわけじゃあないよ。でも女の子と一緒にいるのに、他の女の人に目が行くわけないだろう。」

未佳はみるみる赤くなった。

英治はしまったと思いながらも、これ以上話を続けるのはまずいと歩き出した。

今日は『単に仕事仲間と遊びに来ただけ』なのか『気になる人とのデート』なのか。

服装から察するに、前者であると考える。

であれば不適切な発言だ。

ましてや相手は高校生だ。

冗談と受け流せないかもしれない。

英治は考えるのを止めた。

二人の目前には水槽のトンネルがあり、小魚が群泳していたからだ。

「すごい、イワシの群れだ。」

「これってイワシなんですね。生きてるところ見たのは初めてです。」

『初めて』というところに過剰反応してしまい、またまた思いを巡らせてしまう英治であった。

トンネルを抜けると色とりどりの魚達が待っていた。

「エイがいますよ。」

「ホントだ。結構デカイな。」

「タツノオトシゴって近くで見るとグロくないですか。」

「え、どこにいるの。海藻しかみえないんだけど。」

「あっちでナマコ触れますよ。」

「うわ、パス。俺そういうの無理だから。」

特に珍しい魚というわけでもない。

何気ない一時を誰かと共有している。

楽しい。

面白いとか愉快とか、そういう感情とは違う。

何気ないのに楽しいのだ。

英治は純粋に楽しんでいた。

「あれ、ここはステージですか。」

丸いプールを囲むように、長いベンチが階段状に並んでいる。

「イルカショーだね。まだ少し時間があるけど今のうちに座っておこうか。」

「はい、それじゃあ私は飲み物買ってきますね。何が良いですか。」

「炭酸系なら何でもいいよ。」

「わかりました。ちょっと待っててくださいね。」

そう言うと、未佳はすぐそばにある売店に向かった。

英治がベンチに腰をおろすと、三頭のイルカがジャンプした。

遊んでいるのか練習なのか、どちらにせよ、まるで歓迎してくれているようだった。

「はい、お待たせです。」

未佳は自分の顔が隠れそうな、大きなカップを両手で差し出した。

「ありがとう、これってコーラかな。」

「さあどうでしょうね。」

未佳はいたずらっぽく笑う。

英治が恐る恐る口をつけると・・・間違いない、コーラだ。

「なにびびってるんですか。」

「びびってなんかないよ。それより一つしか買わなかったの。」

「はい、特大サイズですから二人で飲めばいいかなって。」

英治はたじろいでしまった。

でも平然を装った。

「まあ、回し飲みなんて友達同士じゃ普通だよね。」

「え、まあそうですね。とくに気にしたことありませんけど、普通じゃないですか。」

英治は心の中で思った。

ー俺の高校時代には女の子と回し飲みなんて文化はなかったぞ。今の子達が羨ましい。

少しだけ沈黙が流れていった。

そして英治は思い切って聞いてみた。

「俺と一緒に水族館に行こうって言われてどう思ったの。」





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ