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二人の海

「荷物貸して、熊手あるよ。」

 未佳はナップサックの中からプラスチック製のミニ熊手を2本取り出した。

「おお、潮干狩りだな。」

 英治はその場でしゃがみ込むと、勢いよく砂を掻きだした。

 だが掘れども掘れども何も出ない。

「やめた、おもしろくない。」

 英治はミニ熊手を置いた。

「はや、もうあきらめるの。」

「あきらめるというか、潮干狩りって結果を求めるから会話もないし、今すべきことじゃない。」

「熊手持ってきたのに。」

「だったら砂の城を作ろう。」

 英治は熊手で砂を掘り、集めて山を作り出した。

「なにそれ、子供っぽい。」

「大人だからこそクオリティの高い砂の城を作るんだよ。」

 そう言いながらも英治は手を休めない。

 みるみるうちに砂山は大きくなっていった。

「じゃあ英治くんは本丸ね。私は二の丸作るから。」

 未佳は横に小山を作り出した。

「本丸って、日本のお城なの。西洋のお城じゃないんだ。ノイシュバンシュタイン城みたいな。」

「ノイ・・・ナニそれ。姫路城みたいなのじゃないんだ。」

「渋いな、砂で日本の城とか。爺さんかよ。」

「乙女に対してジイさんとかひどくない。」

「事実だ、ひどくない。」

「男がノイなんとかなんて城に憧れるなんて引くわぁ。」

「ノイシュバンシュタインはあのシンデレラ城のモデルと言われる由緒正しきお城だぞ。」

「男がシンデレラとか引くわぁ。」

 口はもちろん手も休めない二人。

 砂の山はどんどん大きくなる。

 そんな時、砂を掘った未佳の熊手に、石のように固い物が当たった。

 未佳は手で砂を掻きわけると、そこには幾つかのアサリの姿があったのだった。

「英治くん、アサリじゃない、コレ。」

 身を乗り出して覗く英治。

 ふと見ると、前屈みになった未佳の胸元が見えそうだ。

 少し暗い、未佳の顔で影になっている。

 もうちょっとなのに。

「英治くん、どうしたの。」

 英治の心臓は止まりそうだった。

 当たり前に何をしているのだ。

「ああ、いや良く見えなかったから。」

「何が。」

「いや何でもなくて、アサリかどうかなぁってまあそのね。」

 その時、二人の足元まで波が打ち寄せた。

「わ、冷た。」

 立ち上がって後ずさる二人。

 気が付くと、すぐ近くまで潮が満ちていた。

 アサリと思わしきものは波がさらってしまっていた。

「いつの間にか潮が満ちていたね。」

「アサリもいなくなっちゃった。」

 砂の城、というか砂山まで波が来るのも時間の問題だ。

 二人は城を放棄して、砂浜を歩くことにした。

 未佳が足元の貝殻を拾い上げた。

 艶やかな白く丸い貝で、オレンジ色の模様が入っている。

「この貝なんかキレイじゃない。」

「タカラガイだね。」

「そうなんだ、でもタカラガイってもっとツヤツヤしてない。」

「ちょっと貸して。」

 英治は貝殻を受け取ると、自分の鼻に擦りつけた。

 すると貝は日差しを受けてキラキラと輝きだした。

「ほら、きれいだよ。」

 未佳は苦笑いをしている。

「キレイだけど・・・ビミョーだわ。鼻の油つけるなんてジイさんみたい。」

 そう言いながら、サロペットのポケットにタカラガイをそっとしまった。

「あの岩まで戻って、お弁当を食べようよ。」

 来るときに登った大きな岩を未佳は指さした。

「よし、じゃあ競争だ。」

 英治は言うや否や駆け出した。

 行きに未佳に走りで負けたことがくやしかったのだろう。

 未佳の方を気にせずに走っている。

 しかし英治は忘れているようだ。

「いて、痛い、貝殻が足に刺さった。」

「来るときもやったじゃん、英治くんっておもしろ。」

 未佳はおなかを抱えて笑っている。

 英治はつま先立ちでそっと大岩まで移動した。

「よし、俺の勝ちだ。」

「勝負とかしてないし。」

 未佳はさらに笑い転げている。

 そしてゆっくりと大岩まで歩いてきた。

「さあ、お弁当食べよう。」

 ナップサックをあさる未佳に、英治は空を見上げていた。

「なんか遠くまで来たって感じだね。」

「そうだね。朝も早かったし、また同じように帰ると思うと・・・。」

「ワクワクする。」

 大岩の上で肩を寄せ合い座る英治と未佳であった。

読んでいただきありがとうございました。


次回更新は4日の午後9時予定です。

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