行程から楽しめますか。
まだ早朝だというのに日差しが強い。
出勤するより早く家を出ることになった英治。
まだ6月だが泳げるかもと思いつつ、駅のホームで電車を待つ。
スーツ姿の中年男性がチラホラといる。
通学にはまだ早過ぎる。
電車が到着したが予想通りのガラガラ具合。
中央車両のボックスシートに腰をかける。
英治はすかさず未佳にメールを送った。
窓からの景色は、何となく白くぼやけて見える。
窓ガラスに砂埃が付着して、そう見えるだけなのだが。
それでも英治は少しだけ面白いと思っていた。
車主体の英治にとって、電車に乗るのはかなり久しぶりだ。
むしろ、自分で運転しない乗り物に乗るのから久しい。
二つ後の駅から未佳が乗り込んできた。
未佳はデニムのサロペットにナップサックを背負っている。
未佳はすぐに英治を見つけると、ボックスシートの横に座った。
「折角ボックスシートなのに横に座るのか、向かいに座るじゃないの。」
英治は少し動揺していた。
「ボックスシートってなんですか。」
「こういう向かい合わせになっている座席のことだよ。」
英治は未佳の方を向いていたが、すぐに顔をそむけることにした。
「どうしたんですか。」
「いや、近いんだよ。近すぎるんだよ。」
車の座席よりもお互いの距離が近い。
未佳は意識していなかったが、英治の過剰な反応を見ていると、自分も恥ずかしくなってしまった。
これでは、雅人とも隣り合わせで座っていたなんて絶対に言えない。
でもふと思い出してしまった。
「何をいまさら照れてるんですか。この前、抱きついたのは誰ですか。」
英治も鮮明に思い出してしまった。
「あ、あの時はごめんなさい。調子に乗ってました。」
英治の『調子に乗ってました』が可笑しくて、未佳は思わず吹き出してしまった。
調子に乗るような場面ではなかったし、調子に乗る素振りでもなかった。
だからこそ対応に困ってしまったというのに。
「何がおかしい。」
「だって、絶対調子に乗ってなんかいないのに、他に言い訳ないのかな。」
「言い訳じゃない・・・たぶん。」
あの時は、なんであんなことをしたのか、英治自身が良く分かっていなかった。
「まあ、いいでしょう。今日は素直な英治くんが見られることを先生は期待してますよ。」
「なんだそれ。」
「先生です。」
「なんの。」
「なにかの。」
「大雑把すぎる。キャラ設定はないわけ。」
「めんどくさい。」
「なにが。」
「英治くんが。」
「俺なの、俺がめんどくさいの。そう言えばこの間も言ったよね、めんどくさいって。」
すでにめんどくさい奴になっている英治であった。
未佳はもう聞いていない。
ごそごそとナップサックの中をあさっている。
「はい、サンドイッチ作ってきたよ。」
「え、もう食べるの。お昼用じゃないんだ。」
「だって朝が早かったから食べそこなったんだもん。」
実は英治も朝食を食べそこなったくちである。
本当は食べたいのに素直になれない。
何事も否定から入る、やはりめんどくさい男であった。
「何だか遠足みたいだね。」
「そうだね。」
やっぱり一緒にいるとそれだけで楽しい。
そう思う二人であった。
読んでいただきありがとうございました。
次回更新は今日の午後9時予定です。




