嫉妬ですか。
「今度の土曜日はお休みにしてください。」
む未佳は電話越しの英治に軽快に告げた。
「なんだか今日は陽気ですね。」
「実は遊園地に行くんですよ。」
「そうですか。働いてると友達と遊ぶ時間も少なくなるので、この機会を満喫してくださいね。」
しばらく間が空いた。
そして未佳はポツリと言う。
「雅人君と行くんですよ。」
またしばらく間が空いた。
英治は意味が分からなかった。
どうして未佳が雅人と遊びに行くのか。
そもそもどうしてそれを俺に言うのか。
足の感覚がなくなってきた。
胸の真ん中あたりに違和感が感じられる。
「そう、お疲れ様。それじゃあね。」
英治は抑揚なく言うと、すぐに電話を切ってしまった。
右手の筋がプルプル震える。
血の気が引いているのが分かる。
「英治、明日の連絡はあと何人残ってるんだ。」
「配置表を見てください。それで分かりますよ。」
イラついている。
イラついている。
イラついている。
イラついている。
「すみません、体調が悪いので今日は帰ります。」
「ん、ああ分かった。」
帰るといっても定時はとっくに過ぎている。
英治はとにかく此処にいたくないと思った。
主任は、いつもの英治ではないと感じ、特に何も言わなかった。
ただひとつだけ、『もう終わりかな』と思っていた。
どうやって帰ったのだろう。
英治は気が付くとベッドの上にいた。
頭の中はナニカでいっぱいだった。
ナニカが何かは分からない。
おもむろに腕立て伏せを始めてみた。
今日は25日だから25回やってみよう。
しかし17回が限界だった。
息も絶え絶えに、喉の奥が熱くなった。
でもこの瞬間はからっぽになれた。
わずか7分だけだけれど。
考えても分からない。
何を考えていいか分からない。
嫉妬なのか。
嫉妬だろう。
俺の方が未佳と一緒にいた時間は長い。
長いはずだ。
親しいはずだ。
好きだとかよくわからないまま、ただ一緒にいると楽しい、それだけだと思っていた。
それがこんなにも激しく苦しい。
これが恋愛なんだろうか。
だとしたら・・・
こんなのいらない。
未佳と話がしたい。
未佳に連絡がしたい。
未佳に伝えたい。
ナニを伝えたい。
分からない。
今は何も言えない。
いや言わない方が良いだろう。
かっこ悪い、悪すぎる。
こんな姿は誰にも見せたくはない。
英治は思いっきり両手の平を広げてみた。
指と指の間がビリビリするまで広げてみた。
なんだかこのビリビリが、見えない力の源であるような気になった。
そんなこと、あるはずないって分かっているのに。




