どうして警備員になったんですか。
どうして警備員になったのか。
単純な話、手っ取り早く稼ぎたかったからである。
当時の英治は専門学校に通っていた。
大学を卒業し、入った会社は半年も経たず辞めてしまった。
辞めた理由はどうだっていい、今思えば子供だったということだ。
それから公務員になろうと考えた。
とにかく真面目に黙々と働きたい。
そう思い、公務員を目指す為、専門学校に通うことにした。
専門学校での成績は良好で、模試の結果も順調であった。
しかし通うお金がなくなった。
親に頼りたくはなかった。
社会人として半年も勤まらなかった英治に対し、両親は半人前の烙印を押した。
そのうえ学費を出してくれなんて、口が裂けても言えなかった。
そこで手っ取り早く稼ぐには警備員になろうと考えた。
もっとも、たまたま目についた求人情報が警備員だっただけなのだが。
簡単そうに見えた。
今は耐える時期だと思った。
その為には負担にならない仕事をしようと思った。
そして勉強に打ち込もうと思った。
そんな考え自体が、社会を知らない子供だということに気付かされたのは後になってからだった。
「君、大学出てるんだね。インテリなの、外での仕事だからきついよ。」
「いえ、インテリなんてことはありません。大した大学ではないですし。外での仕事も平気です。」
主任との初対面は、面接だった。
真面目ぶったお子様。
いい加減そうな中年。
それがお互いの第一印象であった。
「おたく、スーツなんかできたけど、そんな上品な仕事じゃないからね。夏なんて真っ黒に日焼けしちゃうよ。」
「大丈夫です。元々が地黒ですから。」
そうは言ったものの、(スーツが場違いなんてそんな馬鹿な、スーツこそTPO完全制覇ではないのか)と不安がよぎっていた。
「まあ、本人がそう言うなら良いかな。じゃ、採用ね。いつから来れる。」
あっけない結果に英治は戸惑った。
不況・就職難が当たり前、就職活動に1年以上も費やしてきた。
それがたったこれだけで決まるものなのか。
あっけない。
と同時に会社に対する不信感も湧いてきた。
「それでは来週からお願いします。」
とはいえお金は必要だ。
取り敢えず働こう。
嫌なら辞めればいい。
「え、来週からなの。明日からじゃダメかな。」
「明日からですか。」
「そう、研修が1日あるから現場に出るのは明後日からだけどね。」
1日だけの研修、明後日には現場。
半年かけても独り立ちしていなかった前の会社とは大違いだ。
「分かりました。宜しくお願いします。」
こうして英治は警備員となったのだった。
英治は初めから評判が良く、そつなく業務をこなしていった。
どこの現場でも喜ばれる為、主任にとって都合の良い存在だった。
英治は仕事を断らなかったことから、毎日のように配置されていた。
汚れることもいとわず、泥だらけになることもあった。
それでも英治は勉強を怠らなかった。
体力的にも精神的にも辛いと思っていたが、それが力になっていた。
こんな辛い毎日は嫌だ、絶対に抜け出して見せる。
それが英治の心の支えでもあったのだ。




