駐車場って暇ですか。
「駐車場の案内って、結構ヒマなんですね。」
誘導要員として来たものの、一向に客足が伸びず、駐車場はがら空きだ。
未佳はバタバタと走り回る覚悟で来ただけに拍子抜けのようだ。
「暇なのって嫌いですか。」
「嫌いじゃないけど・・・今日は英治さんとだべっているだけだなって。」
「俺とだべるのがイヤなんだね。」
未佳は慌てて首を振る。
「そんなことないですからね。」
そう言いながら笑う未佳。
「笑ってるし、やっぱりそうなんだ。」
「そうじゃないですよ。ただめんどくさい人だなあって。」
「うわ、ひどいね。めんどくさいんだ、もう本心でちゃったね。」
未佳は苦笑いになっていた。
なんだろう、こんな人だっただろうか。
取り敢えず話題を変えようと周囲を見渡した。
「そういえば他の人達がいませんね。」
「入口側と奥と出口側と、それぞれ離れた配置についているからね。普通は警備員が固まっていればクレームものだよ。」
それもそうだ。
応援要員である英治と未佳だからこそ何もしていないが、他の人達はいつも通りの業務にあたっているのだ。
「申し訳ありませんが、停め直して頂けますか。」
見ると年配の男性に英治が話しかけている。
男性の車は大きく斜めに駐車して、2台分のスペースをとっていた。
「どうせがら空きなんだからいいだろう。」
確かに説得力がないまでに空車が目立つ。
「確かに空きは問題ありません。ですが、このように駐車されると、他の車からぶつけられる可能性が高くなります。私共も注意を払うのですが、駐車場内での事故は自己責任となっておりますので・・・。」
英治は笑顔で接している。
むしろ笑いを堪えている顔だ。
『事故は自己責任』という言葉が英治の中で面白かったようだ。
「あなた、停め直した方がいいんじゃない。」
男性の隣にいた妻と思われる年配の女性が声を掛ける。
「そうだな。」
男性はしぶしぶ停め直すことにした。
「英治さんって駐車場の案内は何度目ですか。」
「え、3回目かな。ここは初めてだけど。」
もう驚かない未佳であった。
「自分がお客さんで来た時のことを考えればいいわけだよ。満車なのに警備員がダラダラしてたら腹が立つけど、走り回って空きを探してくれてたら腹も立たないだろう。」
「今はダラダラしてますけどね。」
「まあ、夕方には忙しくなるだろう。」
「英治さんって警備員の才能がありますよね。」
警備員の才能、具体的には分からないけれど、未佳はハッキリと実感している。
「警備員って誰でもできる仕事だぜ、才能あるって言われても嬉しくないんだけど。」
誰でもできる仕事だと言うが、本当に誰でもできるわけではない。
簡単だからこそ難しい。
矛盾してはいるが、未佳はそう考えていた。
「英治さんってどうして警備員になろうと思ったんですか。スカウトですか。」
「スカウトってなんだよ。未佳ちゃんこそどうなの。」
「私は単純に楽そうだと思ったからです。まあ実際、楽と言えば楽ですけど。」
「大変と言えば大変な仕事だよね。」
「そうですね、じゃあ英治さんの番ですよ。どうして警備員やってるのか、詳しく教えてくださいね。」
「分かったよ、詳しく話すよ。少し長くなるけど良いね。」
そう言うと、英治は警備員になった経緯を語り始めた。




