SP(後編)
食事会の会場は、学校から歩いて5分程のホテルであった。
ホールを貸切で行われる立食パーティー、英治はドレスコードなど気にする性質ではないのだが、さすがに普段着は恥ずかしいと思わざるを得なかった。
「普段着ってまずくないですか。」
「大丈夫ですよ、むしろスーツが浮いてるから。」
確かにそうだ。
会場には60名程がいるが、ほとんどが普段着であり、スーツ姿は2名しかいない。
町内会の寄り合いに、営業マンが紛れ込んでいる。
そういう情景が思い起こされた。
円卓が並び、大皿に料理が盛られている。
中央にはパンで出来ていると思われる50センチ程のキリンがいた。
英治は怪しまれないよう、小皿を手にしたものの、料理に手をつけることはなかった。
「由香って変わったよね。昔は男の子っぽかったのに。」
「そうかな、でも子供のころなんだから変わって当然でしょう。」
「それもそうね。」
他愛のない会話を横で聞く英治。
常に意識は会場全体を見渡している。
「ところでこちらの彼氏を紹介してよ。」
当然ながら会話に参加せざるをえない。
「年下なんだ、背高くていいな。羨ましいぞ。」
悪い気はしない。しかし女性に囲まれて(それも見ず知らず)対応に困る英治であった。
「カレシさん、なんか困ってるみたい。かわいいね。」
男がかわいいと思ったことのない英治は、あと4年も経てば分かるのだろうか、と考えていた。
ふと見ると、祥子が一人になっていた。
「由香さん、思い切って祥子さんと話してみられては。」
英治の突然の提案に、由香はたじろいでいたが、無言で頷くと、祥子の元へ駆け寄った。
祥子は飛び切りの笑顔で迎え入れた。
由香は少し恥ずかし気に祥子を見た。
二人の間に何の遺恨も感じられない。
「あの二人ってとっても仲がよかったの。それこそ恋人同士みたいにね。」
談笑する二人を見て、英治は確信していた。
すると由香と祥子の間に一人の男性が割って入った。
だがその瞬間、男性の前には英治が立っていた。
「おっと、僕の彼女を口説かないでくださいね。」
「英治さん、恥ずかしいですよ。」
「だって由香さんを守るのが僕の役目だから。」
ウソはついていない。
祥子はクスクスと笑っている。
「由香ってカレシできたんだ。子供のころは女の子が好きなんじゃないかと心配してたんだよ。」
「そうなんだ、祥子ったらヒドイなあ。」
「なんか男の子っぽかったし。今はすごく女性らしいよね。」
それから二人は他愛のない会話に没頭した。
英治は一安心と、由香の死角になる位置で、料理を食べることにした。
中央のキリンらしきものにも手を出した。
足を少しちぎって口にしたが、パサパサでおいしいとは言えない。
挙句にキリンはバランスを失い、大きく傾いてしまった。
英治は素知らぬ顔でその場を離れることにした。
とはいえ、常に意識は由香と祥子に集中している。
由香が祥子から離れた時に、すかさず駆け寄った。
「ありがとうございます。すっきりしました。」
由香は深々と頭を下げた。
「気付いてたんですか。」
「なんの話ですか。」
英治は空とぼけた。
とは言え分かっていた。
脅迫は彼女の自作自演なんだと。
そしておそらくは同性愛者であることを隠している。
わずかでも悟られたくない。ましてや親にも初恋の相手にも。
といったところだろう。
「すみません。パーティーなのに何も口にされていないでしょう。」
「いえいえ仕事ですから。」
こちらも空とぼけるより他なかった英治である。




