SP(中編)
小学校のグラウンドの片隅に集まる人達。
思いの外みな普段着である。
タイムカプセルを掘り出すという。
だから汚れてもいい服装とのことだ。
同窓会だから皆が同い年のはずだ。
しかしそうは見えない。
頭髪が寂しい男性、生活感が出過ぎた女性、やけに若々しい人もいる。
人は見た目ではないと言うが、こうしてみると送ってきた人生が見た目にも反映されているように感じられる。
依頼人の由香は若く見える方だろう。
「あそこにいるのが祥子です。」
祥子というのは、由香に脅迫まがいの電話をかけてきた本人らしい。
ショートカットの健康的な美女で、とても脅迫など卑怯な手を使うようには見えない。
情報通りな点は、周りに男性が集まっていることくらいか。
とはいえ油断は禁物と、英治は祥子の視界から由香を隠すように立っていた。
「由香だ、久しぶり。元気ぃ。」
同級生だった女性が次々と由香に話しかけてくる。
どうやら由香はそれなりに人気者だったようだ。
英治は少しだけ距離を置いたが、祥子から目を離すことはなかった。
一人の男性がスコップで土を掘っている。
タイムカプセルを掘り起こしているようだが、みんな各自で話し込んでいる。
メインであるはずのタイムカプセルを掘っているのに、まさかのボッチだなんて寂しい限りだ。
しばらくすると、祥子と話していた男性の一人が英治に近づいてきた。
「えっと、おまえ誰なんだ。」
至極当然の質問である。
「由香さんの会社の同僚です。なんか面白そうだったので付いてきちゃいました。」
すると男性は大きく目を見開いて笑い出した。
「どうりでか、いや誰だろうって話題になってたんだ。」
そりゃそうだろう。
男性は続ける。
「でも、おまえ、さては同僚なんかじゃないな。」
バレたのか、英治は内心緊張していたが、できる限りの笑顔を見せた。
「おまえ、由香さんの彼氏だろう。」
ああそっちか、英治はホッとした。
「バレました、実はそうなんですよ。同窓会だなんて合コンみたいなものでしょう。初恋の男と燃え上がりましたなんてことがないよう監視役として来たんですよ。」
想定内、打ち合わせ済みのことである。
しかしながら、この粘着彼氏設定はいかがなものか。
この設定を考えたのは英治自身であり、こんな発想ができる自分の中にも粘着体質があるんだと自己嫌悪していた。
「由香さんに彼氏なんて想像できないな。全然男子と仲良くしないから、男嫌いで通ってたんだけど。」
「へえ、そうなんですね。」
「まあ、小学生だったら変でもないか。」
「そうですね。」
生返事で会話が続かない。
いや、知らない者同士が同窓会で話すことなどないのが普通である。
やがて男性は別の場所へ移動した。
祥子の元に戻るのではと警戒したが、全く接触する様子はなかった。
「英治くん。」
由香が話しかけてきた。
「このあと移動して食事会があるんだけど、一緒に参加してくれませんか。」
「もちろんいいですよ。ところで、先ほど祥子さんの取り巻きと思われる男性から話しかけられましたので、由香さんの彼氏と言っておきました。」
『祥子』というワードに反応したのか、由香は一瞬止まっていたようだが、すぐに我に返っていた。
「ありがとうございます。このまま何もなければいいのですけど・・・。」
『何もなければいい』どこか引っかかる英治であった。